蝶よ花よと育てられ、天下に近いと言われている伊達家に見初められた、この私に対して。下賤と言い、醜女と言い、あまつさえ化け物と言い放った。それも真の化け物である憐なんかと比べて。
 憐の方が良いだなんて。許せない、許せないわ。こんな侮辱、屈辱は初めてよ。
 今までに感じた事がない程の怒りが湧き上がる。ギリギリと強く歯がみし、ガリガリと長い爪が畳を抉った。
 唯一の取り柄であった顔を潰してやっただけでは、生ぬるかったようね。この私をコケにして、侮辱したのだもの。
 そしてあの麗しい方も、私に泣きついてくる様にしてやるわ。やはり私の方が美しい、と。無礼を許してくれと泣きつき、私の虜となってしまうでしょうね。
 でもそうなっても、もう遅いのよ。罪は重いわ、言葉にならない程にね。
 見ていなさい、二人とも。この東姫を敵に回したのだから、絶対に生かしちゃおかないわ。
 私はギリッと歯がみしてから、纏っていた小袖に手をかけた。
・・・
 今頃、雷華様は東姫様といらっしゃるわよね。
 上の小窓から漏れる月明かりを眺めながら、私は袖から伊予姫様から頂いた巾着袋を引っ張り出した。そしてその巾着袋を開け、中に入っていた笛を取り出す。
 雷華様に、もうこの笛の音をお聞かせする事もなくなるのよね。だって、私なんかに目をかける理由がなくなったのだもの。
 雷華様と東姫様。お互い見目麗しくて、まことにお似合いだわ。そう認めるのも、それを見るのも嫌で、目を逸らしてしまいたくなるけれど。
 私の意見なんか、塵芥。誰も聞く必要はないし、気にとめる必要もない。
 じわじわと歪んできた視界を乱雑に指先で拭うが。すぐに目頭が熱くなり、視界がぼんやりと滲んだ。
 改めて思い知らされる。私にはこんな闇がお似合いで、雷華様には東姫様の様なげに美しき姫が相応しいのだ、と。
 雷華様にお会い出来ず、この関係が終わってしまうのは悲しき事だけれど。雷華様を心の奥底から思うのならば、会わずに終わるのが正しき道と言うものよね。
 私に出来る事は、優しさで目を掛けて下さっていた今までのお礼と、これからの雷華様の華やかな未来を願うばかりよね。