底冷えした声で一蹴され、蕩々と気持ち良く話していた私は「へっ」と素っ頓狂な声をあげてしまい、信じられずに目を瞬いた。
 目の前の雷華様は端正な顔を嫌悪で歪め、この美しい私の顔を信じられない程冷たい目で射抜いている。
「あ、あの雷華様」
「耳障りだ、黙れ、喋るな。それに我の名を口にするでない。お前の様な人間が、我の名を呼んで良い訳がなかろう。我の名が汚れる」
 冷酷にぴしゃりと言われてしまい、私は信じられずに「けっ、汚れる?」と言葉につまりながら、目をこれでもかと言う程見開いてしまう。
 私が信じられない様な言葉の数々に、愕然としていると言うのに。雷華様は冷淡な言葉をお止めになられない。
「それに・・よくもりんを化け物だ、なんだと好き勝手に申してくれたな。あの者のどこが醜い化け物だ、我の目には主の方が醜い化け物に見えるぞ」
「な。何を申していますの!?この私を醜い化け物なんて!」
「真実だ。だが、これで分かったぞ。主であったか。手も届かぬ程深き闇にりんを沈め、りんの自尊心を傷つけ、りんの全てを壊した者は。そして我がりんの為にと贈った霞ひを強奪したと言う者は」
 スッと冷酷に目が細められ、その視線は私が肩にかけている衣に向いた。
 か、かひ?も、もしかしてこの衣の事?この衣をかひと仰っているの?
 私はぎくりと身を強張らせながら、肩にかけている美しい紅色の衣をぎゅっと堅く握る。
「それはかように使う物でないぞ。分かっておらずに盗み、我が物の様に使うとは・・滑稽としか言えぬ。無知を晒していると言うのが分からんか、愚かな女よ」
 冷淡で、聞くに堪えない言葉をつらつらと並べられ、私は怒りでピクピクと震え出す。
 けれどこの方は、若様なんかよりも眉目秀麗で高貴なのだ。そんなお方の目に止まっているのだから、小言の一つ二つは聞き流すべきよ。得られる物の大きさを考えたら、こんな言葉はかすり傷程度だわ。
 私は震えを押さえる為にグッと奥歯を噛みしめながら、引きつった笑みを見せる。
「い、嫌ですわ。そんな事仰らないで下さいまし。あ、あの子の呪術にかかっているのですわ。さ、こちらにいらして。私が貴方様を解放して差し上げますから、極楽の夜を過ごせますわよぉ」
 サッと逞しい腕を取ろうとすると、ひょいと躱されたばかりか「我に触るとは」と怒りが籠もり、底冷えした声で告げられる。