私はどんと容赦なく、暗く深い谷底に突き落とされてしまう。助けてとも声をあげられず、手を伸ばして縁に掴まる事も出来ず。ただただ、真下の闇に落ちていく。
 そうだ。私は醜く、汚らわしい化け物。雷華様の優しさで、思い上がってしまった。私は、憐れな化け物だわ。
 その事実が覆い被さってくると、私は風を切りながら静かに闇へ戻っていく。
 私は抗わない、出ようとももがかないわ。いつの間にか忘れてしまっていただけなのね、この闇を。この闇が、本当の自分が居るべき場所だったのよね。忘れていたわ。
 右目の視界が歪み、ぽたっと手の甲に何かが滴り落ちる。その何かは手の甲に当たり、ふるふると留まるが。再び上からの何かで耐えきれずに、手の甲を流れ星の様に横へ滑っていった。
「思い上がって、人間の女の様に恋をしただなんて、恥ずかしいわぁ。でもようやくあの方も解放されるのだから、それだけは喜ばしい事ねぇ」
 冷淡に独りごちると、態度が一変し「いらっしゃるのは明日の夜なのよねぇ。名前も分かったから良かったわぁ。若様には貴方を仕置きで蔵に入れると言っておくから、安心して蔵で過ごすと良いわよぉ」と嬉しそうに告げ、東姫様はそそくさと歩き、ぴしゃりと障子を閉めた。
 パタパタと嬉しそうに歩く東姫様の足音が、どんどんと遠ざかっていく。
 そうして障子が閉められると、静寂が虚しさとなって襲ってきた。それと同時に、目の前も深い闇の色に覆われた。唯一、外の世界を映す事が出来る右目ですらも、真っ黒に塗りつぶされてしまった様だった。
 こんなにも思い上がって、私は間抜けね。言葉にならない程のうつけだったわ。
 これ程までに救いようがないなんて、東姫様の仰る通り。気がついて良かった、再び雷華様に会わなくて良かったわ。これ以上雷華様に、迷惑をかけられないものね。
 私には、この闇だけがお似合いなのだから。
 良かったの、これが。これで・・・良かったのよ。
・・・
 ストンと部屋の向こうから降り立つ音がすると、障子にあの美しい影が映った。その影を見ると、私の胸はどきどきと高鳴り、顔がぽーっと赤くなってしまう。
 いよいよ、いよいよなのね。邪魔な憐は蔵に行かせたから、今宵からは私と雷華様の華やかな夜が始まるわ。