擁護を入れる様に微笑を浮かべながら告げると。瞬く間に、沈んだ顔に煌々とした輝きが取り戻されて、目に見えて分かる程嬉々とし始めた。
 そして「まことだな?!」と噛みつく様に尋ねられる。私は「ま、まあ。そうね」と、相手の圧に気圧されながら答えた。
「じゃあ、期待しても良いな?!良いって事だな?!」
 まくし立てる様に口早に言われると。ガッと力強く肩に手を置かれ、ビシッとその場で立ち止まらされた。満面の笑みを浮かべた善次郎が、私の視界に大きく映る。
「明日まで待つ!だから今日考えて、明日!明日すぐに返事を聞かせてくれ!」
 明日って短すぎるわと、訴えようと口を開こうとしたが。にかっと白い歯を覗かせながら破顔され、「じゃあ!」と逃げる様に立ち去ってしまった。その速さは疾風の如くで、ハッとすれば善次郎の背中は、もう手の届かぬ距離であった。
 ポツンと残された私・・。
 どうしましょう。否が応でも、明日までには答えを出さなくちゃいけないのよね。うーん、猶予が短すぎるわ。
 私は小さく嘆息してから、止まっていた足をのろのろと動かし始めた。空はもうすっかり橙色、靄然と広がる白色の雲になんだか風雅さを感じる。
 善次郎と夫婦になる、かぁ。考えた事もなかったけれど、善次郎となら素敵な未来が描けるのかもしれないわね。
 よくよく考えれば、何の障害もないものね。それにここで手を取らないと、私は一生結婚なんか出来ないわよね、きっと。それに善次郎と夫婦になる事が、絶対に嫌と言う訳でもないのだし。色好い返事を返そうかしら・・・。
 あ。そうだわ、父様にもお話してみましょう。父様は何と仰るかしら。善次郎だから良いのではないかと仰るかしら、それとももっと家柄が良い所があると反対するかしら。
 まぁ・・。私の頭で、父様の言葉を考えたって分からないわよね。早く帰りましょう、それが良いわ。
 自問自答に終止符を打ち、のろのろと動かす足を早めて家に戻った。
 そして私は思い知る。父様の答えは、私が想像していた言葉のどれにも当てはまらなかった、と。
 帰宅して告げられた、開口一番の言葉に。私は愕然とするのを越えて、訳が分からずポカンと間の抜けた顔をして立ち竦んでしまった。