確かに、雷華様とお会いすると嬉しくなる。雷華様と過ごす時間で暗くなる事なんてなくて、雷華様からかけられる全ての言葉に舞い上がりそうになる。
 嬉しくて、喜ばしくて。こそばゆくて、面映ゆくて。それが苦しくても、恥ずかしくても、ずっと雷華様のお側にいたくて。それだから、こんなにも隣を手放したくないのね。
 雷華様は私の光だけれど、ただの光じゃなかったのかもしれない。
 私は・・・雷華様を好いていたのね。
 いつの間にか。あの方に・・恋をしていたのね。
 その時、自分の中で何かが晴れた気がした。そして自分の心にある箪笥の奥底に、深く強く仕舞っていた心が輝きながら飛び出してくる。
 よく分からないけれど。とても気持ちが晴れやかになって、すーっと心地良い風が自分を包み込んだ。
「は、恥ずかしながら。そう、みたい、です」
 少しの間をあけてから、私はもごもごと東姫様の問いに答える。
 そう答えた刹那だ、甲高い高笑いが目の前から発せられた。私がその笑いに愕然としていても、東姫様はケラケラと嘲笑い続け、私を底冷えした目つきで貫く。
「貴方、自分が何か忘れているのではなくてぇ?うつけもうつけ、そこまで愚かだったなんてねぇ。阿呆らしいわぁ。あぁ、でもぉ。化け物が与えられた優しさに舞い上がる様は実に滑稽ねぇ、見ていて楽しくなるわぁ」
 扇子を取り出し、パタパタと煽ぎながら冷酷に告げる東姫様。扇子からギロリと鋭く覗く二つの眼は、まるで閻魔の様に恐ろしい瞳だった。
「げに愚か者、うつけ者。いいえ、貴方はそんな言葉も凌駕してしまうわねぇ。ここまでのうつけ者は初めて見たわぁ。化け物が思い上がる様は、フフッ、まこと見ていられないわねぇ」
 私は愕然とするのを越え、目の前の状況に唖然とする。言われる言葉は耳にしっかり入り、何度も脳内で反芻していると言うのに。言い返す言葉の一つも思いつかず、自分と言う存在がどこか遠くに行ってしまった様に呆然としだす。
「貴方みたいな化け物は、誰も相手をしないのよぉ。誰も貴方に恋をしないし、思いを返す訳ないわぁ。忘れている様だから、思い出させてあげるわよぉ。貴方は一生醜い化け物、一生涯孤独の汚らわしい化け物なのよ」
 ぴしゃりと冷淡に告げられた。