そうだわ。私が居ると、雷華様の品位が落ちる。あの方は眉目秀麗なのに、私はひどく醜い化け物。隣に居る事が相応しいかと尋ねられたら、首を横に振ってしまう。私なんか、雷華様のお隣には相応しく無いと。それこそ東姫様の様な美しい方の方が、お似合いと言うものだ。
「あの方だって、人間の美しい女を知らないだけよぉ。だから貴方みたいな物に、目にかけてしまうのよねぇ。そんなの、あんまりにも可哀想だわぁ。だからこれからは、この東姫が、貴方の代わりを務めるわぁ」
 温柔に告げられ、東姫様はスクッと立ち上がった。
「あの方が、この衣を贈って下さったのよねぇ。この色、私の好みだしぃ、きっと気が合うわぁ。楽しみだわぁ。あ、勿論だけれど。貴方は邪魔だから、私がお相手している間は蔵に入っていなさいねぇ」
 喜色を浮かべながら、さらりと蔵に入る様命じられる。
 雷華様とは、今宵だけ会えないどころか。明後日から、ずっと会えなくなってしまう事になるなんて。
 胸が押し潰されそうな程の悲しみが生まれてしまう。暗然としながら、命じられた言葉を頭の中で反芻する。
 確かに私は、雷華様に相応しくない女だわ。東姫様とお会いしたら、きっと雷華様は東姫様の方を選んでしまうでしょうね。それほどに東姫様は美しい女性だから。見目麗しい方同士で、お似合いだわ。化け物といるよりも、その方が雷華様も幸せと言うものよね。
 けれど、雷華様と会えなくなってしまうなんて・・嫌よ。雷華様を、一目でも良いからお目に掛けたいの。雷華様は、私の光だから。
 私は胸に渦巻いている悲しみと辛さを噛みしめ、瞼裏に温柔な笑みを浮かべる雷華様を映しながら「あの」と、気分上々になっている東姫様に声をかけて、その歩みを止めた。
「何よ」
 居丈高に返され、私はその圧にビクリと強張りそうになるが。グッと堪えて「お願いです」と、彼女の前でぎこちなく額ずく。
「ひ、一目で良うございますから。わ、私にも。ら、雷華様と、お会い出来る機会を」
「はぁ?」
 自分の中にある、なけなしの勇気をかき集めて、頼み込んだが。その勇気は残酷にも無下にされる。
 東姫様は言葉を遮ったばかりか「冗談よねぇ?」と、嘲笑を浮かべながら言葉をぶつけてきた。
「貴方、あの方に恋をしているとでも言うのぉ?」
 恋。私が、雷華様に・・?