「良いわよぉ。特別に見逃してあげるわぁ。同じ側室ですものぉ、助け合わないとねぇ」
 恐ろしい程までにあっけらかんとしていて、にこやか。東姫様から、こんな上機嫌な声がかけられたのは、醜くなってからも、嫁いでからも初めてだ。
 東姫様の事だから、こんな好機は絶対に逃がさないと思っていたけれど。東姫様にも、存外、私に向けてくれる優しさが少しでも残っていたって言う事よね。
 意外な事に愕然としながらも、その中に優しさを見出した気がして目がじわっと潤む。
「か、かたじけのう」
「ただしぃ」
 額ずいて礼を述べようとした時に、猫なで声が重なり、私の礼が遮られた。え、と言葉を零し、下げかけていた頭を戻して、恐る恐る東姫様を見据える。
 すると東姫様は、これ以上ない程の満面な笑みを浮かべられていた。
「これからはこの私、東姫があの方のお相手をするわぁ」
「え、そ、それは」
 思いがけない言葉に呆気にとられながら、訥々と尋ねると、私の全てを一蹴する様に「当然よぉ」と言った。
「貴方じゃ、あの方のお相手は務まらないでしょうしぃ?あの方の隣に居る事に相応しくないわぁ」
 ぐさりと深く心に突き刺さる事を飄々と言われ、私はうぐっと言葉に詰まる。
「あらぁ、嫌だわぁ!もしかしてぇ、見目麗しいあの方の隣に相応しいと、分不相応にも程がある事を思っていたのかしらぁ?まさかよねぇ!」
 失笑されながら言葉を容赦なくぶつけられ、私は何も言えずに口を閉ざしてしまう。そうすると、ますます毒を持った言葉をぶつけられていく。
「あのお方はとても見目麗しいでしょう?それなのに醜い化け物が横に居ると、全てが台無しだわぁ。あの方の品位が落ちているのよねぇ。それでも居てくれるのは、あの方の優しさよぉ。渋々貴方の隣にいるのよぉ、それは分かるわよねぇ?誰も、貴方みたいな化け物の隣にはいたくないものぉ」
 とめどなく流れる言葉に耳を塞ぎ、「違います」と反駁したいが。全てが反論できない言葉で、私はただただ受け止めるしか出来ない。そして次第に思い出していく、忘れてしまっていた理と、悲しい感情を。