それは、二人の距離。
 いつの間にか互いの距離は近づき、今では横並びになって笛を吹き、笛の音を聞く。それは笛の時間だけではなく、話す時も、雷華様が持ってきた明の食事を共に口にする時も。横並びではない時が、逆に少なくなってきた。
 それは嬉しくもあるけれど、どこか面映ゆくて赤くなってしまう。でも、その横並びの状態が、不思議と嫌だとは思わない。寧ろ横並びが良いと、望んでいる自分が居る。
 日々、不思議な感情の中をふわふわと行き来しながら、私は雷華様と時を過ごしていた。
 そんなある日の事。私はいつもの様に雷華様と共に楽しい夜を過ごし、払暁近くの時に屋敷に送っていただいた。
 ストンと軽やかに、私の部屋の前に降り立ち、雷華様はゆっくりと私を下ろしてくれる。
「今宵も、とても楽しゅうございました」
 私が喜色を浮かべながら言うと、雷華様は「我もだ」と柔らかな笑みで頷いてくれた。その微笑みで、胸にほわんほわんと喜びが浮かび上がる。
「ではな、りん。また」
 突然雷華様はハッとした顔をして、言葉を中途半端に途切れさせた。明日にな、と続くはずの言葉がかけられず、私はきょとんとしてしまう。
「・・・・雷華様?」
 私が恐る恐る尋ねると、雷華様は目を落としながら「忘れておった」と言い淀んだ。
「すまぬが。明日は、りんの元に行けぬ。明に戻らねばならぬのだ」
「えっ」
 重々しく告げられた言葉に、私の頭はがつんと殴られた様にぐわんぐわんと回りだす。そして驚き以上に、寂しさと悲しさが自分に押し寄せてきた。
「そう、ですか」
 感情を隠しきれず、ひどく落胆し、俯きながら答えてしまう。
 子供らしく、感情をむき出しにするなんていけないのに。自分の感情が押し殺せないなんて。なんと情けない事か、こんな事をしてしまえば、雷華様をひどく困らせてしまうだけなのに。
 こんな気持ちではいけないと、忸怩たる思いでいっぱいになり、無理やり顔を上げようとした。
 その刹那だった。そっと温かく大きな手が右頬に添えられる。割れ物でも触れるかの様に優しく、そしておおらかに包み込む様に。
 その手にハッとし、俯いていた顔がバッと上がる。私の右目に映る雷華様は、惚けてしまう程の優しい笑みを浮かべていた。