しっかりと目を見つめながら答えると、目の前の雷華様はもう一度「敵わんな」と呟いてから、顔を綻ばせた。
 胸がドキリとしてしまう程の柔らかさで、私を見つめる双眸は優しすぎて。私の心臓は不思議と飛び上がり、ドッドッと太鼓の様に鳴りだした。けれど不思議と胸は痛くなくて、その心音ですらも受け入れてしまう。
 ど、どうしたのかしら、私は。と、恥ずかしく思うけれど、今はそれどころじゃなくて。ただ雷華様を見つめていたい、そんな気持ちでいっぱいだった。
 すると雷華様が私の頬を撫でながら「今日はこうしていようか」と、優しく提案してくれる。
「空を飛ぶと傷に障るであろうしな。笛を吹くのも辛かろう。偶にはこうして、ただ側に居るだけでも良い。語らい合うのも良い」
 にこやかに「どうだ?」と尋ねられると、私は「左様ですね」とすんなりと答えていた。いつもみたいに渋る事もなく、拒絶する事もなく。
 そして私達はただその場に横並びに座って、言葉を交わし合った。仄かな月光が、差し込む場所で。
 それからは傷が癒えるまで、こうして言葉を交わすだけにする事。贈り物を食べ物にするから、共に食べようと言う事。一緒に笛の曲を作ろうと言う事など。
 色々な会話をしたが。どの話も私の胸を躍らせ、心臓を高鳴らせるばかりだった。
 雷華様も、私と同じ気持ちだったら良いのに。と思いながら、雷華様と言葉を交わしていた。
 そうしてあっという間に、雷華様が去ってしまう。その時を迎えると、ひどく心が寂しくなった。離れがたくて、いつもより後ろ姿を見送るのが寂しくて。
 けれど「またな」と言われると、また明日の夜が楽しみだと、明日に思いを馳せてしまう。会えると言う喜びを感じてしまう。
 雷華様と出会ってから、自分の世界から影が薄くなっていく様に感じるわ。醜い化け物だと言う事は、何も変わっていないはずなのに。雷華様といると、自分が変わったと錯覚してしまう。
 雷華様はこんな事を思っていないでしょうけれど・・。
 あの日、雷華様が私を見つけてくれて、引っ張り出してくれて良かった。良かったわ。
・・・
 それから早くも二週間が経った。傷もだいぶ癒え、夜には雷華様が私を連れ出して森に行く。そして雷華様の前で笛を吹いたり、共に曲を考えたり。
 そんな幸せな夜の日々が戻って来た。ただ一つだけ、その日々の中で変化があった。