「こんな大切な事、冗談では言わないぞ」
 真剣な眼差しに射抜かれながら言われたので、私は直ぐさま「そう、よね」と強張りながら答えた。その反応に、善次郎はクスッと柔らかな笑みを零すけれど。その笑顔はすぐに真剣な表情に戻ってしまい、再び逸らす事が出来ない目で射抜かれる。
「どうかな」
 どうかなって。私、どうしたら良いのかしら。善次郎の事は好きだけど、そう言う好きかと問われたら違う気がする。
 でも、善次郎は本当に良い人だと知っている。夫婦になれば大切にしてくれるだろうし、愛情を沢山注いでくれるだろうと思う。幼馴染みでもあるから、気兼ねする事もない。善次郎のお母様とお父様もよく知っているから、舅と姑となっても上手くやっていけると思う。
 けれど、どうしても善次郎の隣に立つ私が、お嫁さんとして立つ姿が想像出来ない。善次郎がお嫁さんに向ける優しさとかも考えられるのに。幸せだと想像出来るのに。善次郎の相手が、不思議と自分だとは思えない。
 私は真剣な目から逃れる様にパッと軽く俯いてから「少し、考えても良いかしら」と歯切れ悪く答えた。
 色好い返事ではなかったせいか。隣に居る善次郎から「嫌なのか?」と間髪入れずに尋ねられる。ひどく面食らっていて、驚きと戸惑いでいっぱいになっていると、よく分かる声音だった。
 私はその声にぶんぶんと首を横に振って「何と言うか」と上ずらせながら、言葉をおずおずと吐き出していく。
「すぐには決められない。だ、だってそう言う風に、善次郎を見た事がなかったのよ。お、幼馴染みだとばかりに思っていたから」
「だからこそだ、りん」
 言葉を遮られながら強く言われるが、「だとしても」と私も負けじと顔を上げて、食い下がる。
「一生懸命考えて決めさせて欲しいの。夫婦になるって言う事は、人生において大切な決断でしょう?幼馴染みだから結婚するって言うのも違うと思うし、気心知れている仲だからその場で答えを出せるって言うのも違うと思うの」
 私が言葉をぶつける度、目に見えて分かる程善次郎の顔はどんどんと暗くなり、沈んでいった。この世の終わりとばかりに気落ちし、「そうか」と意気消沈してしまう。
「で、でも少しだけ良いかもと思ったわ。少し、少しだけそう思ったわよ」