突然映った明服に驚き、ハッと顔を上げると、一歩ほどの間が空いた所で、雷華様が笑顔で立っていらした。
 また唐突に、眼前に立っていらっしゃるなんて!
 泡を食い、バッと距離を取ろうとするが。その前に、パシッと軽やかに手を掴まれ、キュッと柔らかく大きな手に包み込まれた。
 美しく、温かな手に包み込まれた瞬間。ドキドキッと心臓が痛む様に跳ね、体を巡る血が一気に加速する。
「あ、あ、あの、手を!」
 口ごもりながら、素っ頓狂な声を張り上げた。それと同時に、急いで自分の汚らしい手を引っこ抜こうとするが。「落ち着け」と、目の前で優しく宥められた。
「少し移動するぞ、我の手を取れ」
 その言葉で、「あ」と自分が慌てている事が間違っていると理解する。
 移動をする為に手を取られたのに、なんて恥ずかしい間違いを・・。
 変に慌てて恥ずかしいと身悶えながらも、私は大人しく雷華様の言葉に従う。
 そして雷華様は私が大人しくなるのを見ると、私の手を引っ張りあげる様にしながらひょいと飛び上がった。華奢な手から伝わる力は想像以上に強く、ぐいと引っ張りあげられ、あっという間に地面から足が離れた。ふわんと軽やかに体が空に浮き上がり「きゃあっ?!」と口から悲鳴が飛び出す。
 雷華様よりも少しだけ高い位置に上がり、恐ろしさで全身から血の気が失せていくが。「案ずるな」と私を落ち着かせる様に軽やかに笑い、雷華様はストンと大岩の上に降り立った。
 先に雷華様がストンと降り立つと、自分の元に引き寄せる様に握られている手からぐいっと強さを感じ、浮き上がっていた体がゆっくりと雷華様の元に降りて行く。
 そして私もストンと大岩の上に降り立つと、雷華様が「すまぬ、怖かったか?」とクスリと笑みを零した。それがまるで子供が悪戯をした後の様な笑みで、どこかハッとすると言うか、ドキリと胸が高鳴る様な感覚に陥ってしまう。
 けれど、すぐにその気持ちを押さえる様に「それはもう」と少し怒った声音で、俯きながら答えた。
「そうか、それはすまない事をした」
 顔を上げてくれ?と、いつもより近くで聞こえる、惚けてしまう程の優しい声に、封じていた高鳴りが容易に弾け、またもドキンッと強く鼓動を打った。
 私は「そ、そんなに気を遣って、頂かなくとも」としどろもどろに訴え、少し雷華様から距離を取る。