なんて不思議に思ったけれど、そんな言葉はグッと押し込めて「そうよ?」と端的に答える。
「結婚する年齢になってきたな」
「そう言えばそうねぇ。早いわね、もうそんな年齢だなんてね」
「良い相手、とか。想っている相手とか・・・いる?」
 胡乱げに尋ねられ、私は「居ないわよぉ」とケラケラと笑いながら返した。
「そんな殿方、いらっしゃらないわ。私は笛だけの女だもの。教養も無いし、お裁縫も苦手だし、お料理も苦手だし。良妻賢母になれないから」
 自分で言っているくせに軽く傷つき、自嘲気味な笑みを浮かべながら答える。
「いや、そんな事はないぞ。りんは奥州一と言っても過言ではない程綺麗だし、めんこいし。心も清らかで、優しくて。笛を吹けば、浄土が見える程上手いし。良い所ばかりだ」
 急に心がむず痒くなる様な言葉をつらつらと並べられ、私は「えぇっ?!」と素っ頓狂な声を上げてしまい、あわあわとし出す。
「な、なな、な。と、ととと、と、突然何を言うの?!」
 愕然として、訥々と言葉をぶつけるけれど。善次郎は飄々と「嘘は言ってない」と答えた。私はその答えで、余計に泡を食い始めてしまうけれど。善次郎も、耳から頬にかけて赤みがほんのりと差されている事に気がつく。
 きょ、今日は善次郎がおかしい!急に褒めるし、急に真面目になるし!
 私は、大慌ての内心を強く押さえながら「あ、ありがとう?」と、なんとか言葉を吐き出した。
 すると善次郎はガシガシと後頭部を掻きながら「そ、それでな」と弱々しい声音で、私に言葉を投げかける。
 その小さな呟きで、私は話の先をなんとなく感じ取ってしまい「ま、まさか?」とぶわっと全身の血が沸騰し始めた。
「お、俺と・・その、なんだ。夫婦(めおと)に・・・ならないか?」
 夫婦・・・。
 訥々としながらも、力強く告げられた言葉に、全身の血がぶわっと駆け巡るどころか、ドコドコと太鼓の様に心臓が鼓動を打ち始める。
 けれどそんな心臓を慮る暇は、私には無かった。目の前の状況に対する驚きが、感情の全てを占めているから、そこまで手が回らないのだ。
 私は調子外れの心臓と驚きを鎮める様に、ふうううと長く息を吐き出す。
 そして「本気?」と、どこか戦々恐々としながら尋ねた。
「本気だ」
 目がそらせない程キリッとした目つきで、しっかりと見据えられ、私はヒュッと息を飲んでしまう。