するとフフッと目の前から柔らかな笑みが零れる音がし、「りんよ」と優しく名を呼ばれる。
「な、なんでございましょうか」
「我の正体が分かり、主はどう思うた?」
「と・・申しますと・・?」
 質問に質問で返してしまったからか、雷華様の「いや、何かあるであろう?!」と愕然とした声が上から降ってきた。
「我の正体を聞き、思った事があるであろう?怖いとか!恐ろしいとか!」
 まくし立てる様に尋ねられ、私は「あ、いえ」と小さく首を振った。
「恐ろしいとか、怖いとかは思いませぬ。ただ分からぬのです」
「分からない?我の名か?我の正体か?どういう存在か伝わらなかったか?瑞獣と言うのが分からなかったか?瑞獣と言うのはだな」
 次々と言葉を重ねられるが、私は「そうではございませぬ」と彼の言葉をぶつりと遮った。そして重たい口をゆっくりと開いて答える。
「雷華様という素晴らしきお名前も、尊きお方だと言うのも分かりました。分からないのは、何故雷華様は私の元に現れたのか、と言う事にございます。それに私は拒絶してばかりでおりますのに。貴方様は嫌な顔の一つもせず、優しいままだと言う事も。私には理解出来ませぬ、私は醜い化け物ですのに」
 そう言い終えた瞬間「何だ、その様な事か」と笑い飛ばす声が降ってきた。私はその笑いに信じられず、愕然としながら顔を上げると。彼は本当に笑顔を浮かべていた。
 そしてにこやかに私を見据えながら「では、恐ろしいと言う気は抱いておらぬのだな?」と、確かめる様に言葉を投げかける。
「そ、それは勿論にございますが。しかし私めに構う理由が」
「それならば良かった」
 バッサリと言葉の先を遮られるが、雷華様の声は喜びに満ちていた。そのせいで、言葉を遮られて嫌な気なぞ全く起きなかった。
 そして再び「りんよ」と優しく呼ばれ、私は少し遅れてから「はい」と答える。
「その答えはな。自ずと分かる時が・・否、お主に分かってもらえる様になるまでだな。その時まで、我はその答えを言わぬ」
 私に分かってもらえる様になるまで?一体、何の事かしら。
 うーんと考え込もうとした瞬間、カラカラと笑われ「無理に分かろうとする必要はないのだ」と告げられる。
「ですが・・」
「案ずるな、今はそれで良いと言うものだ。さて、それではりんよ。もう一曲、何か吹いてもらえぬか?我はもう一度聞きたくなった」