ふふんと鼻高に言われるけれど、やっぱりよく分からない。けれど何だか凄い事だけは分かって、「はぁ、左様でございますか」と曖昧な相づちを打った。
「我は平和を好み、争いを嫌煙し忌避する者でな。今の明国は荒れ、美しい場がない。それに我が仕え、従うに相応しい者もいなくてな。暇つぶしに、倭国に渡ってきたのだ。ここも人間が争いを繰り広げているが、この森は平和で美しい。神聖な力ですらも感じる、故に我は気に入ったのだ。まあ、これは先程申したな」
「はぁ。兎にも角にも雷華様は尊きお方、と言う事にございますか?」
「左様だ」
 直ぐさま首肯され、「はぁ」と再び小さな息が零れてしまった。
 なんだか理解出来る範囲を遙かに超える事が起こっていて、彼の言葉が上手く噛み砕けない。けれど厳か且つ蠱惑的な雰囲気を纏っていて、どこか近寄りがたい様な物を感じてしまうのが、これで納得出来た。人の形をしているのに、人間離れしている程の美しさを留めている容姿にも「道理で」と頷けてしまう。
「りん、聞いておるか?」
 怪訝な声がして、ハッと我に帰ると、雷華様が私の顔を覗き込むように尋ねてきていた。あまりにも端正な顔立ちが眼前にあったので、私は「ひやっ」と素っ頓狂な声を上げて飛び退く。
 雷華様は私の反応に、少し複雑そうな顔をすると「聞いておったか?」と再び尋ねてきた。
 どうやらぼうっとしてしまったみたいで、その間にも蕩々とお話は続いていたみたい。
 私は「申し訳ありませぬ、聞いておりませんでした」と、消え入りそうな声で正直に答え、軽く頭を下げた。
 すると、げほんとわざとらしい咳払いが一つ聞こえ「ま、まぁ良かろう」と、寛大な言葉が上からたどたどしく降ってきた。長い前髪の隙間から、雷華様を窺う様にして見ると、雷華様は少し拗ねた様な顔をしていた。
 それがなんだか可愛らしくて。とても高貴なお方と言う事なのに、なんだか無邪気な子供の様に見える。
 フフッと笑みを零してしまい、慌てて口を塞ぎ、俯き直すと。雷華様から少し遅れて「兎に角!」と、必死に何かを取り繕う様な胴間声が張りあがった。
「我の話を端的に纏めると!麒麟は数少なく、おいそれと人間の目に触れられる存在ではないと言う事だ。しかと覚えておくが良い!」
 やや高圧的に告げられ、私はすぐに「畏まり申しまする!」と歯切れ良く且つ口早に答えた。