そしてニコリと破顔しながら、私の目をしっかりと見据えながら告げる。
「主は自分の事を醜いと言ったな。だが、どこが醜い?やはり我には理解出来んぞ。かように笛の音も美しく、心も健気で美しいと分かると尚更な。主は醜い化け物なんかではない、とても美しい人間の女子(おなご)ぞ」
 その言葉に、私はぶわっと喜びを感じ、目頭が熱い物でツンツンと刺激された。
 そんな言葉、言われたのはいつぶりだろうか。日々罵られ、自分なんかと卑下するばかりの毎日なのに。誰かが私を気にする事もなくて、誰かが私の心の声に気がついてくれる事もないのに。
 この人は気がついてくれて、この人は私の心を見てくれた。褒めてくれた。私という存在を確かな者として捉えてくれて、ありのままの私をしかと見てくれている。かけてくれる言葉も険を含まず、柔らかい。
 今まで堪えていた物が溢れそうになり、それを必死で押さえる様に口元に手を強く当て、唇をきつく噛みしめながら俯く。
「我はこんなに無邪気で、清廉な心を持った美しい人間を見た事がないぞ」
 朗らかに重ねられる言葉に、堪えている喜びが溢れそうになるが。
 唐突に小十郎様の嫌悪に歪んだ顔と、数々の罵倒が脳裏にフッと現れた。かと思えば、瞬く間にそれは広がり、あっという間に喜ぶ気持ちを闇に塗り潰していく。
 そうだ、褒め言葉をかけてくれていても。それはその時だけ。その時だけの甘い言葉に過ぎないのよ。手の平を返して、強く罵る時が来る。人間でこうなら、妖怪は尚更でしょうね。人を欺き、騙すのが妖怪と言う者なのだから。
 私は誰が見ても、醜い化け物には変わらない。絆されて、勘違いしてはいけないのよ。
「私は醜い化け物にございますから」
 淡々と言い、口早に「私は騙されませぬ」と付け足す。
 すると「成程」と悲しげな声が聞こえた。恐る恐る顔を上げて見ると、目の前の端正な顔は物憂げな表情だった。神秘的な月光が差し込まれているせいか、そんな物憂げな表情ですらも儚い美しさを感じてしまう。
「我が妖怪の類いだから、甘言を申していると。そう思うのか?」
 弱々しく尋ねられるが、私はすぐにきっぱりと「はい」と答えた。その答えに、彼は「弱ったものだ」と呟く。
「妖怪故に信じてもらえぬとは、なんと悲しき事か。我の本音なのだが、信じてはもらえぬか?」