地を這う様な威圧的な声で怒鳴られたばかりか、ドンと強く突き飛ばされ、私は無様にドンッと尻餅をついた。じんじんとお尻から痛みを感じ、恨みがましくその近習を射抜くが。その近習は悪びれる様子もなく、当然だと言わんばかりで腕を組んだ。
「部屋に戻れ。ここはお前の様な者が居て良い場所ではない」
 冷淡に告げられた言葉に、怒りと呆れが綯い交ぜになった様な、不思議な感情が湧き上がり、「はっ?」と零してしまう。
「私は小十郎様の側室ですよ。故にお目通り叶えるはずですが」
 ふらふらと立ち上がり、呆気に取られながらも強く訴えるが。私を押しのけた近習は「部屋に戻れ」と、一点張りだ。
 その冷淡な態度に、自分の中の何かがプチンと弾ける。
「私は此度の件で、小十郎様にお伝えする事があると申したはずです!そこをお退き下さい!小十郎様、どうかお目通りを!これは伊予姫様がやったのではありませぬ!東姫様達の謀、狡猾な罠にございます!」
 埒が明かないと憤懣しながら声を荒げると、カラリと障子が開き、部屋の中から小十郎様が顔を出した。その事に、慌てて「若様!」と近習の方は、飛び退くようにして膝をつく。
 私は「小十郎様!」と顔を輝かせ、小十郎様の前に立つが。先程立ち上がったばかりだと言うのに、ハッと気がつけば。私は横に倒れていた。じんじんと鈍い痛みが、右頬から発せられ、これは鳥兜の毒の痛みではないとぼんやりと理解する。
 唖然として小十郎様を見上げると、小十郎様は汚物を見る様に睥睨し、「無礼者めが!」と声を荒げた。
「え?」
 右頬を押さえ、小十郎様を信じられない目つきで見つめると、更に小十郎様は激昂し「拙者を見るな!その悍ましき顔を見せるでない!汚らわしい!」と怒鳴った。
「お前を見ると兄者を思い出すのだ!あの醜い右目と同じじゃ!お前の様な醜い者が拙者の側室だと?!なんとおこがましい事か!虫唾が走るわ!愚か者めが、お前はもう側室でもない!拙者の女でもない!お前は醜い化け物じゃ!汚らわしい化け物じゃ!」
 つらつらと吐き出された酷薄な言葉に、私は驚きを越えて、呆然としてしまう。夢でも見ているのやもと、自分の目の前を疑る程に。
 だが、小十郎様の酷薄な言葉はまだまだ続いていた。