聞き馴染みのある声が聞こえたので、私はピタッと指を止め、笛に送り続けていた息も止めて、くるりと振り返る。途中でぶつりと止められたせいで、笛からはぴょろっと調子外れの締まらない音が発せられた。
はにかみながら、私を優しい眼差しで見つめていたのは、同い年で幼馴染みの善次郎(ぜんじろう)だった。農作業から抜け出してきたのか、首に手ぬぐいを巻き、手には鋤が握られていた。
私はフフッと笑みを零してから「ありがとう」と答える。
「でも感心しないわ、善次郎。畑仕事を抜け出して、こんな所に居るのだから。親父様に怒られるわよ?」
悪戯っ子の様に笑いながら告げると、善次郎は「うるさいなぁ」とふて腐れた顔をしながらも、私の隣に移動して来て、どっかりと腰を下ろす。
「お前の笛の音が聞こえたら、仕方ないだろ。仕事を抜け出して、りんを探すのはさ」
「フフッ、何それ。善次郎ってば、まるで犬みたいに言うのね」
クスクスと微笑を零しながら突っ込むと、善次郎は「うるせぇなぁ!」と頬杖を突き、ふんっとそっぽを向いてしまった。
あらら、からかいすぎちゃったわ。
ごめんね?と言おうと口を開こうとした矢先に、善次郎の方から言葉が発せられた。
「お前の笛は、綺麗で美しいから。お前が笛を吹いている時は、側で見たい」
奥歯を噛みしめながら言われ、私は呆気に取られてしまう。そして善次郎の頬から耳にかけて、赤みが差し込まれている事に気がつくと、益々呆気に取られてしまった。
唖然とすると言うか、嬉しさが零れると言うか。言葉にし辛い感情に飲み込まれ、ただポカンとしてしまう。
けれどすぐに顔が綻んできて、私は「ありがとう」と伝えた。
「善次郎が褒め言葉を口にする事なんて、あまりないから。貴重で嬉しいわ」
顔を覗き込む様に言うと、善次郎は口元をもごもごとさせてから「べ、別に」と歯がみする様に言葉を吐き出す。
「そんな大した事言ってねぇよ」
フンッと荒々しい鼻息を出されてから、またそっぽを向かれてしまった。
けれど、その顔はすぐに戻って来て「そんな事よりも!」と、居たたまれない空気を壊す様に声を張り上げる。
「早く吹いてくれるか?!こっそり作業から抜け出して来たんだぞ!」
「はいはい、分かったわ。でも善次郎が曲を止めたんじゃなかったかしら?それも良い所で」
はにかみながら、私を優しい眼差しで見つめていたのは、同い年で幼馴染みの善次郎(ぜんじろう)だった。農作業から抜け出してきたのか、首に手ぬぐいを巻き、手には鋤が握られていた。
私はフフッと笑みを零してから「ありがとう」と答える。
「でも感心しないわ、善次郎。畑仕事を抜け出して、こんな所に居るのだから。親父様に怒られるわよ?」
悪戯っ子の様に笑いながら告げると、善次郎は「うるさいなぁ」とふて腐れた顔をしながらも、私の隣に移動して来て、どっかりと腰を下ろす。
「お前の笛の音が聞こえたら、仕方ないだろ。仕事を抜け出して、りんを探すのはさ」
「フフッ、何それ。善次郎ってば、まるで犬みたいに言うのね」
クスクスと微笑を零しながら突っ込むと、善次郎は「うるせぇなぁ!」と頬杖を突き、ふんっとそっぽを向いてしまった。
あらら、からかいすぎちゃったわ。
ごめんね?と言おうと口を開こうとした矢先に、善次郎の方から言葉が発せられた。
「お前の笛は、綺麗で美しいから。お前が笛を吹いている時は、側で見たい」
奥歯を噛みしめながら言われ、私は呆気に取られてしまう。そして善次郎の頬から耳にかけて、赤みが差し込まれている事に気がつくと、益々呆気に取られてしまった。
唖然とすると言うか、嬉しさが零れると言うか。言葉にし辛い感情に飲み込まれ、ただポカンとしてしまう。
けれどすぐに顔が綻んできて、私は「ありがとう」と伝えた。
「善次郎が褒め言葉を口にする事なんて、あまりないから。貴重で嬉しいわ」
顔を覗き込む様に言うと、善次郎は口元をもごもごとさせてから「べ、別に」と歯がみする様に言葉を吐き出す。
「そんな大した事言ってねぇよ」
フンッと荒々しい鼻息を出されてから、またそっぽを向かれてしまった。
けれど、その顔はすぐに戻って来て「そんな事よりも!」と、居たたまれない空気を壊す様に声を張り上げる。
「早く吹いてくれるか?!こっそり作業から抜け出して来たんだぞ!」
「はいはい、分かったわ。でも善次郎が曲を止めたんじゃなかったかしら?それも良い所で」