そうしてまんまと私が毒に倒れて、何も言えないのを良い事に。訴える事をしない伊予姫姉様の性格をも逆手に取って、私と伊予姫姉様を潰したのだわ。
 なんて惨たらしい事をしたのかしら、あの方達は。寵愛争いを減らす為に。私の支えを無くし、私の心を完璧に潰す為に。ここまでするなんて。
 許せないわと、激しい怒りが瞬く間に燃え上がる。これ以上の怒りを覚えた事はない。全身の血が沸騰し、全身が怒りの炎に包まれる。目でさえも、綺麗な世界を映す事はなく、怒り一色に染まり上がった。勿論、闇に閉ざされた左目の奥もメラメラと炎が燃え盛っている。
「伊予姫姉様は、東姫様達に陥れられただけなのよ!」
 私が怒りに燃えながら声を荒げた刹那。「でまかせを言わないで下さるぅ?」と、今一番聞きたくない声がハッキリと耳に入って来た。
 からりと障子を開けて入って来たのは、東姫様と凪姫様だった。その姿を見ると、老師は慌てて立ち上がり「では、これにてごめん」と、足早に部屋を出て行ってしまった。
 老師が出て行くと、私と東姫、凪姫の嫌な三竦みが出来上がる。
 雁首揃えて、わざわざ罪を認めに来たのかしら。許せない、許せないわ。
 怒りの炎の色が橙色から青色に変わり、ギロリと冷淡な目で二人を貫く。
「でまかせではありません。貴女方が陥れたのでしょう」
 冷徹に告げると、「言いがかり辞めてちょうだい」と凪姫がピシャリと言い放った。
「貴方の様な者に、言いがかりをつけられる覚えもなくてよ?第一、あまりにも無礼だわ。卑しい出の人間が、私達高貴な家柄の者に突っかかるなんて。ねぇ、東姫様?」
 冷笑を浮かべながら東姫様に同意を求めると、すぐに東姫様も「そうだわぁ」と頷き、フッと鼻で笑う。
「私達がやったと言う確かな証拠でもあるのぉ?」
 その鼻持ちならない声と言葉に、私は嫌でも言葉につまり、憤懣としてしまう。
 確かに、東姫様達がやったと言う証拠はないわ。鳥兜の粉末を入れたと言う事も、おはるさんに命じたと言う事も。私に渡る様にした事も。東姫様達の証拠は、何一つとしてない。東姫様がやったと言う事よりも圧倒的に、伊予姫様がやったと言う証拠の方が揃いすぎている。