自分の口から出されたとは思えない程の断末魔が吐き出され、目から言葉にならない程の激痛が走った。
 ゴシゴシと痛みを拭う様に何度も顔を擦るが、痛みは強まり、ぐああっと獣の様な呻きが喉から発せられ、ジタバタとのたうち回る。
 言葉にならない激痛でいっぱいで、周りの状況が何も見えなくなったが。耳だけが正常に働き、ガシャンガシャンと金属が割れる音、「りん姫様!」と悲痛に叫ぶ声、慌ただしくなる廊下の音を聞き取る。けれどそんな音に反応出来る程、自分は落ち着いていなかった。
 痛い、痛い。誰かこれを取って、誰か助けて!痛い!苦しい!
 心臓がドクッと強く鼓動を打つと、ヒュッと気管が狭まり、息苦しさも襲ってきた。ジタバタと暴れる事も苦しくなり、あぐあぐと赤子の様に呻き出す。
 顔が痛い、苦しい、誰か助けて。この痛みを取って、この苦しみを消して。
 左目をガリッと強く引っ掻く様に擦ると、雷が迸る様な痛みが襲い、堪らずに瞼が閉ざされていく。それと同時に意識も闇に引っ張られ、それに抗える事なくストンと私は闇に落ちていった。
 そうしてパチリと目を覚ました時には、私はいつもの天井を見つめていたけれど。左目は闇に覆われていたままだった。じくじくと突き刺さる様な痛みも健在で、うっと顔を歪めてしまう。
「目が覚めましたかな」
 のんびりとした声が上から降ってきて、その声の方に顔を動かすと、右目だけに薬師の老師がぼんやりと映り込んだ。
「あ、あの。私は、一体」
 カラカラに干からびた喉から、無理やり声を発すると。薬師は沈痛な表情を浮かべたまま「申し上げにくい事ながら」と、訥々と語り出した。
「りん姫様を襲った物は、鳥兜の毒にございまする。会津塗の箱に入ったおしろい粉に大量に含まれており、それを塗ってしまったが為の事にございまする」
「おしろい粉に、鳥兜の毒?」
 語られた言葉に愕然として、「そんな」とポツリと呟くが。まだまだ追い打ちをかける様に、老師の言葉は容赦なく淡々と続いた。
「左目はもう見える事はないかと。塗ってしまった部分の痛みや赤みも、残念ながら引く事はございませんでしょう。お薬を煎じますが、左側のお顔が以前の様になる事は・・・」
 語勢が弱まり、もごもごと伝えられる言葉に、私は言葉を失ってしまった。
 左目は見えなくなる、痛みや赤みも続く。左側の顔は、以前の様に戻らないなんて。