そして優しく自分の手の中にある巾着袋を撫でてから、「りん姫」と優しく名前を呼ぶ。
「はい、伊予姫姉様」
「いついかなる時も、私の心は貴方と共にあります。それだけは覚えておいて下さいね」
「勿論にございまする」
 私がしっかりと答えると、伊予姫様は眉を八の字にし「私も貴方の様になれたら」と、ポツリと独りごちた。
「伊予姫姉様?」
 窺う様に尋ねると、伊予姫様は「何でもありませぬ、自分に言い聞かせただけですよ」と答え、何事もなかった様にいつもの柔らかい笑みに戻る。
 そしてスクッと立ち上がり「ではね」と告げた。
「はい、かたじけのうございました」
 私は深々と額ずき、伊予姫様の退出を見送る。
 ゆっくりと顔を上げた時には、すでに伊予姫様の姿は部屋になかった。
 私は手にある綺麗な巾着袋にスッと目を落とし、それを優しく撫でる。
 伊予姫姉様の様に繊細な糸で縫われて出来た、頑丈な巾着袋。伊予姫姉様の様に美しい形をした、綺麗な巾着袋。
 大切にしよう、これは私と伊予姫姉様の姉妹の証だから。絆の証でもあり、心は側にと言う励ましでもあるから。ずっと、ずっと大切にしよう。
 キュッと巾着袋を握りしめると、自然と柔らかな笑みが零れた。
 だが、悲劇と言う物は突然襲ってくる。それは容赦なく、そして残酷に襲って来たのだった。
・・・
 なんだかここ最近気怠いわね。きっと、この蒸し蒸しとした気候のせいね。近頃、本当に暑くなってきているし。山岳に囲まれた、この陸奥の清涼も形無しね。
 扇をパタパタと煽ぎながら、外で煌々と輝く太陽に恨み言をぶつける。
 このままだと、暑さにどんどんと滅入ってくるばかりだし。気怠さにも耐えられなくなりそうだわ。何かしましょう、その方が良いわ。
 何をしようかしら。なんて、考えあぐねていた時だった。「りん姫様」と、障子の向こうから知らない声がかかる。
 私は慌てて「はい」と答えると、「失礼しても、よろしゅうございますか?」と丁寧に尋ねられた。
 誰だろうと思いながらも、「構いませぬ」と返すと、失礼しますと丁寧に障子を開けて入って来る。入って来た人は、伊予姫様の付き女房の一人だった。