「ここでは、ただの村娘であると言う事は許されませんよ。村娘だからと見逃される事もないのです。お前も若様をしかとお支えする者となったのです。故に、教養を持った武家の子女の如く振る舞わなければなりません。分かりますか、そうしないと若様の名に傷をつけ、お前が若様を陥れる事になるのです。妻が夫の足を引っ張るなんて言語道断。若様にお仕えする前に、貴方は礼儀を学び、教養を身につけなさい。今の貴方は見るに耐えない、汚らしい所作と言葉遣いですから」
　厳しい口調で告げられ、私は背筋をピシッと伸ばしながら「畏まり申しました」と答えたが。すぐ東姫様が「無礼者ねぇ、藤の方様のお言葉なのだから。額ずくべきよぉ」と、棘のある声で横やりを入れる。
　私はすぐに「申し訳ありませぬ」と東姫様に頭を下げてから「畏まり申しました」と藤の方様に向かって額ずいた。面を上げなさいと言う、藤の方様の声で頭を上げるが。藤の方様は、東姫様を窘める事はせず、私だけをしっかりと見据えていた。
「良いですか。貴方はただの側女です。側女ごときが思い上がらない様になさいね。そして正室である私の言葉は絶対ですから。私の言葉は、若様の言葉と思いなさい。それが正室と言う物なのですから、分かりましたね」
　冷ややかな言葉をかけられるが、私はその言葉を歯牙にも掛けず、従順に頷き「畏まり申しました」と答える。
「それだけじゃないわぁ。良い事ぉ？私達側室にも位があるのよぉ。一番上は言わずもがな、藤の方様だけれどぉ。側室の一番上は私でぇ、その下に凪（なぎ）姫だからぁ」
　東姫様が刺々しく口を開き、自分の前に居る姫君に目線を送った。
　するとその目を受けた、凪姫と呼ばれた姫君が私を見つめる。ふくよかな容姿をし、何事にも柔らな印象を与える方だと思うが。やはり前の二人と同じ様な底冷えした目つきで、温かそうな印象はすぐに粉々に壊されていく。
「そして私の下が、そこに居る伊予（いよ）姫よ」
　凪姫様は艶やかで色っぽい声の持ち主だけれど、口調はひどく淡々としていた。
　そして伊予姫と呼ばれた方は、始終ビクビクとして、東姫様と凪姫様、そして藤の方様の顔色を窺っている人だった。容姿は美しいものの、気の弱さが滲み出ていて、折角の美しさに影が落とされている。
「それで一番下が貴方、生まれも育ちも貧しい貴方が一番下よ」