「奴らがりんを虐めねば、確かにりんは違う道を辿っていたであろうが。我とりんが結ばれぬと言う事はあり得ぬ。出会いが違っていただけで、結末は一緒であったはずだぞ。それが運命と言う物だからな」
 炎凜と私を見つめ、にこやかに答える雷華様。私はその笑みに「そうですね」と応える。
「炎凜よ。架空の話に頭を悩ますでないぞ、母も申したであろう。それが運命だったのだ」
 やや窘める口調で炎凜に言葉をかけると、炎凜は「はい」と言葉を返したが。全く納得出来ない顔つきで、心の中で悶々としているのが分かった。
 その顔つきに、私はフフと笑みを零してしまう。まるで幼き時の自分の様ね、と。
「さぁ、話は終わりだ。中に戻ろうではないか。我は炎凜の二胡とりんの笛を聞きたいぞ」
 雷華様が私達に手を差し伸べてくれたので、私と炎凜はその手を取り、よいしょと立ち上がる。
 そして三人で、屋敷の中に戻ろうとすると「母様」と炎凜が突然立ち止まり、私に声をかけてきた。
「どうしましたか?」
「いつか私にも、運命と言う物が分かる時が来るのでしょうか。私には母様と父様の様に運命を感じ、理解する時なぞ来ぬ気が致します」
 私の目を不安げに見据え、物憂げに尋ねる炎凜。
 私はそんな彼の元に歩み寄り、かがみ込んで、小さな彼と視線をまっすぐに合わせた。
「不安がる事はありません。貴方にもきっと分かりますよ、運命と言う物が。けれど、気持ちは分かりますよ。私もかつてはそうでしたから。自分には運命と言う物が分からない、運命の人なんて見つけられないと思っていましたよ」
「え、母様も同じだったのですか?」
 愕然とし、大きな目で私を見つめる炎凜に、私は「そうですよ」と微笑みながら頷く。
「炎凜、急く必要はないのです。まだ、運命を分からなくても良いのですよ。ですから今は、今という時を精一杯生きて下さいね。分かりましたか?」
 小さな紅葉の様な手を優しく包み込み、笑顔を見せると。炎凜の顔に、ようやく太陽の様に眩しい笑顔が戻った。
 そして「はい!」と朗らかに答え、「ありがとうございます、母様」と屈託の無い笑みを見せる。私はその笑みに「構いませんよ」と破顔して答えた。
「さぁ、父様が待っています。私も貴方の二胡が楽しみですから、早く行きましょうね」
 彼の手を握ったまま立ち上がり、朗らかで優しい笑みを称えている雷華様の元に歩んでいく。