雷華様が嫌悪を露わにしながら呟くと、藤次郎様も三人に辟易した様で「連れて行け」とぶっきらぼうに命じていた。
 そして三人がずるずるとどこかに連れ去られていくが。去り際に「憐!」と東姫様が鬼の様な形相で、私を射抜いた。
「お前のせいよ!お前なんかが来たから、こうなったのよ!許さないわ、私は絶対に貴方を許さないわ!覚えていないさい!呪ってやるわ、呪ってやるんですから!」
 凄まじい怒りと憎しみにぶつけられ、私はジャリッと一歩後ろに引きそうになったけれど。
「ふん。毒婦如きが、我の守りを破れるものか」
 嫌悪と呆れを織り交ぜた言葉が上から降ってきたので、私はその言葉にハッとして微笑み、引き下がりそうになっていた足をその場で踏みとどまらせた。
「戯れ言を気にするでないぞ、りん。あの毒婦の力よりも、我の方が強いからな」
 紅色の瞳に私を不安げに映す雷華様に、私は口元を綻ばせる。
「勿論、私は貴方様を信じておりますから。何も不安がる事はありませぬ」
「そうか」
 雷華様が柔らかく微笑んだ刹那。広がっていた暗雲が消え、嘘みたいに晴れていく。煌々とした太陽の光が闇を消す様に広く差し込み、清々しい天色の空を見せ始めた。闇が消え、美しい空が広がると、神々しくそして荘厳な雷華様のお姿にも磨きがかかる。
 私は顔を見上げ、雷華様と美しい空を瞳に映した。いつも地面ばかりを見つめ、下を向いていたせいで、久しぶりに見る太陽に目が眩む。
 空をこうしてきちんと見上げるのは、何年ぶりだろう。私は今まで、こうも空が美しいと言う事を忘れていたわ。
 雷華様のおかげで思い出せた。空の美しさも、明日に楽しみを抱く事も、未来に思いを馳せる事も、自分と言う存在も。何もかもを。
 雷華様と過ごせる日々が、今から楽しみで仕方ないわ。きっと日々が幸せで、楽しいのでしょうね。
 その時、悠々と空を泳いでいる鳶がピーヒョロローと和やかに鳴いた。
 明るい未来が始まる、安穏とした音が伸び伸びと広がっていく。どこまでも、どこまでも。