「こんな風になるなんて貴方は嫌よねぇ、心も痛むわよねぇ?それにぃ、同じ側室で、私達は仲間だったじゃないのぉ!私だってねぇ、ずうっとあんな事をしたくなかったのよぉ!でも、藤の方様が命じたものだからぁ、仕方なくてなのよぉ!」
「私は違うわよね。この凪姫は、貴方の事を大切にしていたわよね!ね、そう進言して!私は優しかったと言いなさいな!ほら、言いなさい!」
 東姫様と凪姫様は、甲高く声を張り上げて訴える。
 あの気高い二人が衣を乱し、髪を振り乱しながら、化け物と罵っていた私に、必死になって訴える様は、何とも憐れで醜かった。
 けれど、ただお一人。藤の方様は違った。藤次郎様を見て、その場で膝を突き「どうかお見逃し下さい」と声を張り上げ出したのだ。
「私は、若様よりずっと貴方様の事をお慕いしておりましたの。正室になったのも、その為、貴方様に近づきたかった一心ですわ。ですから、どうか、どうか私を貴方様の妾にして下さいませんか」
 その告白には、皆が愕然としてしまう。周りに居た家臣達も、私も、そして東姫様と凪姫様も。
「貴方、散々正室と言う立場を鼻に掛けていたのに!今更そんなの卑怯よ!とんだ尻軽女じゃない!」
 すかさず凪姫様が藤の方様の言葉に噛みつくと、東姫様も「そうよぉ!」と噛みつき始める。
「そしたら私だって、若様を心から想っていた事なんて一時もありませんわぁ!私はただの側女ですからぁ、こんな事をせずとも良いのではありませぬかぁ」
「全ては正室の藤の方様が責を負うべきですわ。私はただの側室ですもの」
「お黙りなさい、貴方達!自分が何を言っているのか分かっているの!」
「それは貴方の方でしょぉ!?」
「私は寵愛が薄い、ただの側女ですし。一切の事に関係ありませぬ。この二人が主だったのですわ。この二人が悪いのですわ」
 キィキィと耳障りな声で罵り合い、訴え出す美しき三人の妻達。
 小十郎様は私達を自分の物として扱い、妻と見ていなかったけれど。それと同じ様に、彼女達も小十郎様の事を微塵も想っていなくて、夫として見ていなかったのね。
 私達の間にあった隠れた歪みが露見し、私は何とも言えぬ気持ちになった。
 一歩間違えていれば、自分もその歪みの歯車にはまっていたのかもしれない。そう思うと、ゾッと総毛立ち、雷華様と出会えて良かったと心底思うばかりだ。
「全く。醜い」