初デートで行った水族館、その次の日はスケートリンク、そして映画館、良く足を運んだ路地裏の雑貨屋、通学路にあるたこ焼き屋。
私たちは、まるで思い出をなぞるかのように時を共に重ねた。
連日のように遊び惚けてばかりで、良いのかとちょっと不安になったけれど、せめて最後の凌との思い出は、楽しいもので終わりたいと、誘われるまま出かけていた。
昨日、出かけ際、毎日二人で出かける私と凌を見て、仲直りしたのかと母に聞かれた。凌と取り込み中だと言っていたこともあり不思議に思ったんだろう。なんて答えるべきか迷った末に「そう言うわけじゃないの」と言った私を母は理解できないといった顔で見た。
傍から見たら、付き合っている二人。
けれど、別れる二人。
付き合うってなんだろう。
ただ二人でいる時に楽しければいいじゃない。
それだけで充分なはずなのに、どんどんその人の全てが欲しくなる。
そして、全てが手に入らないと悲しんだり怒ったりする。
どれだけ、貪欲なんだろう、人は。
かくいう私も、左に同じなのだけど。
そして今日は、遊園地だった。
卒業式は明日だというのに、まるで実感がない。
その3日後には、飛行機に乗って高知へと旅立つ。
卒業式の二日後、つまり私が出発する前日には、凌は樹くんたちと一泊旅行へ行ってしまう。だから、凌と会えるのも、あと今日を入れて残すところ3日となってしまった。
それに、卒業式の次の日は沙和子と遊ぶ約束をしているから、凌とどこかに出かけるのは、きっと今日が最後。
「あー、絶叫系楽しかったな~!」
「えぇ、私無理!昔は平気だったのになぁ」
「あ、それ、年とった証拠」
「うるさい凌。3か月しか違わないでしょうが」
遊園地からの帰り道、興奮冷めやらぬ中あーでもないこーでもないと言いながら私たちは家まで向かっていた。
片手には遊園地で買ったお土産の袋を持ち、もう片方の手は凌につながれていた。
本当に、あの日に戻ったみたい。
少し前は、優しくされるたびに嬉しさと苦しさに挟まれてツラかったのに、今はもう最後だから、と開き直ることができた。
それは多分、凌の優しさにいくら戸惑っても、迷っても、もう道は変えられないから。
私は、4日後にはここに居ないから。
自分で選んだ道を行くしかないから。
「また、行こうな」
つないだ手に、力が込められた気がしたけど、それはきっと気のせい。
「うん、また、いつか行きたいね」
ねぇ、凌。
行きたいという言葉は嘘じゃないから。
その「いつか」は、きっと二度と訪れないだろうけど。
いつかその時が訪れたらいいな、と願うことくらいは、許してくれるよね。
「あら、凌とかすみちゃんじゃない」
久しぶりの声に振り向けば、両手に買い物袋をぶら下げて笑顔を浮かべた凌のお母さんがいた。
隣で「げ、お袋」と呟く凌に苦笑しつつ、私はおばさんのそばに駆け寄った。
「おばさん、久しぶり!」
「ホントよ~!毎朝かすみちゃんに会えなくなってから、あたしもお父さんも寂しくって。バカ息子の顔だけじゃ飽きちゃうからたまにはうちにも遊びにきてちょうだい。あ、大学合格おめでとう!大学でも凌のバカをよろしく頼むわよ。そうだ、今日うちで夕飯食べていきなさいよ。ね、決まり。合格祝いにしましょう。ちょうど刺身が安くていっぱい買ってきたのよぉ」
返事もしてないのに、話はどんどん進んでいくこの感じが久しぶり。
相変わらずのマシンガントークに笑みがこぼれる。
「ほら、貸せよ」
おばさんの持つパンパンに膨らんだエコバッグを受け取る凌。そんなさりげなく優しく出来るところ、すごくいいなと思う。
そういう凌の優しさに惹かれたんだった。
子どもの頃から私が困っている時には、いつだってなんだかんだ助けてくれたよね。今思えば、それは私のことちゃんと見ていてくれたからだってわかるよ。
口ではぶっきらぼうな物言いをするくせに、その実ちゃんと優しいところが好き。
褒められたりお礼を言われると照れるところが好き。
切れ長の男らしい瞳が好き。
情に厚いところが好き。
私のこと笑わせようとするところが好き。
思ってること黙っていられないところが好き。
あげれば、キリがないんだよ。
前を歩いていた凌の背中を見つめていたら、顔だけ振り向いた凌と目が合った。凌は笑みを浮かべながら、「飯、食ってけよ」と言う。
「久しぶりに親父にも顔見せてやって。『かすみちゃんを連れてこい』ってうるせぇんだよ」
確かに、おじさんにも全然会っていなかった。
正直、どんな顔して二人に会ったら良いのかわからなかったけど、せっかく誘ってもらえたから、お呼ばれすることにした。
荷物と上着を自分の家に置いて、ついでに母に夕飯のことを伝えて私は凌の家に上がらせてもらう。
いつぶりだろうか、もはや思い出せないほど久しぶりの凌の家は、何一つ変わらず私を迎えてくれた。
夕飯を手伝うと言っても断られてしまったので、仕方なく凌の部屋で時間を潰すことに。
「ちゃんと綺麗にしてるじゃん」
これまた久しぶりの凌の部屋は、さっぱり小綺麗に片付いていた。以前は割と散らかり放題だったのに。
「だろ。試験終わって暇だったから片づけたんだよ」
「えらいえらい」
することも特になくて、私は凌のベッドにダイブした。
遊園地ではしゃぎすぎたのかもしれない。体が疲れたと訴えていた。
私たちは、まるで思い出をなぞるかのように時を共に重ねた。
連日のように遊び惚けてばかりで、良いのかとちょっと不安になったけれど、せめて最後の凌との思い出は、楽しいもので終わりたいと、誘われるまま出かけていた。
昨日、出かけ際、毎日二人で出かける私と凌を見て、仲直りしたのかと母に聞かれた。凌と取り込み中だと言っていたこともあり不思議に思ったんだろう。なんて答えるべきか迷った末に「そう言うわけじゃないの」と言った私を母は理解できないといった顔で見た。
傍から見たら、付き合っている二人。
けれど、別れる二人。
付き合うってなんだろう。
ただ二人でいる時に楽しければいいじゃない。
それだけで充分なはずなのに、どんどんその人の全てが欲しくなる。
そして、全てが手に入らないと悲しんだり怒ったりする。
どれだけ、貪欲なんだろう、人は。
かくいう私も、左に同じなのだけど。
そして今日は、遊園地だった。
卒業式は明日だというのに、まるで実感がない。
その3日後には、飛行機に乗って高知へと旅立つ。
卒業式の二日後、つまり私が出発する前日には、凌は樹くんたちと一泊旅行へ行ってしまう。だから、凌と会えるのも、あと今日を入れて残すところ3日となってしまった。
それに、卒業式の次の日は沙和子と遊ぶ約束をしているから、凌とどこかに出かけるのは、きっと今日が最後。
「あー、絶叫系楽しかったな~!」
「えぇ、私無理!昔は平気だったのになぁ」
「あ、それ、年とった証拠」
「うるさい凌。3か月しか違わないでしょうが」
遊園地からの帰り道、興奮冷めやらぬ中あーでもないこーでもないと言いながら私たちは家まで向かっていた。
片手には遊園地で買ったお土産の袋を持ち、もう片方の手は凌につながれていた。
本当に、あの日に戻ったみたい。
少し前は、優しくされるたびに嬉しさと苦しさに挟まれてツラかったのに、今はもう最後だから、と開き直ることができた。
それは多分、凌の優しさにいくら戸惑っても、迷っても、もう道は変えられないから。
私は、4日後にはここに居ないから。
自分で選んだ道を行くしかないから。
「また、行こうな」
つないだ手に、力が込められた気がしたけど、それはきっと気のせい。
「うん、また、いつか行きたいね」
ねぇ、凌。
行きたいという言葉は嘘じゃないから。
その「いつか」は、きっと二度と訪れないだろうけど。
いつかその時が訪れたらいいな、と願うことくらいは、許してくれるよね。
「あら、凌とかすみちゃんじゃない」
久しぶりの声に振り向けば、両手に買い物袋をぶら下げて笑顔を浮かべた凌のお母さんがいた。
隣で「げ、お袋」と呟く凌に苦笑しつつ、私はおばさんのそばに駆け寄った。
「おばさん、久しぶり!」
「ホントよ~!毎朝かすみちゃんに会えなくなってから、あたしもお父さんも寂しくって。バカ息子の顔だけじゃ飽きちゃうからたまにはうちにも遊びにきてちょうだい。あ、大学合格おめでとう!大学でも凌のバカをよろしく頼むわよ。そうだ、今日うちで夕飯食べていきなさいよ。ね、決まり。合格祝いにしましょう。ちょうど刺身が安くていっぱい買ってきたのよぉ」
返事もしてないのに、話はどんどん進んでいくこの感じが久しぶり。
相変わらずのマシンガントークに笑みがこぼれる。
「ほら、貸せよ」
おばさんの持つパンパンに膨らんだエコバッグを受け取る凌。そんなさりげなく優しく出来るところ、すごくいいなと思う。
そういう凌の優しさに惹かれたんだった。
子どもの頃から私が困っている時には、いつだってなんだかんだ助けてくれたよね。今思えば、それは私のことちゃんと見ていてくれたからだってわかるよ。
口ではぶっきらぼうな物言いをするくせに、その実ちゃんと優しいところが好き。
褒められたりお礼を言われると照れるところが好き。
切れ長の男らしい瞳が好き。
情に厚いところが好き。
私のこと笑わせようとするところが好き。
思ってること黙っていられないところが好き。
あげれば、キリがないんだよ。
前を歩いていた凌の背中を見つめていたら、顔だけ振り向いた凌と目が合った。凌は笑みを浮かべながら、「飯、食ってけよ」と言う。
「久しぶりに親父にも顔見せてやって。『かすみちゃんを連れてこい』ってうるせぇんだよ」
確かに、おじさんにも全然会っていなかった。
正直、どんな顔して二人に会ったら良いのかわからなかったけど、せっかく誘ってもらえたから、お呼ばれすることにした。
荷物と上着を自分の家に置いて、ついでに母に夕飯のことを伝えて私は凌の家に上がらせてもらう。
いつぶりだろうか、もはや思い出せないほど久しぶりの凌の家は、何一つ変わらず私を迎えてくれた。
夕飯を手伝うと言っても断られてしまったので、仕方なく凌の部屋で時間を潰すことに。
「ちゃんと綺麗にしてるじゃん」
これまた久しぶりの凌の部屋は、さっぱり小綺麗に片付いていた。以前は割と散らかり放題だったのに。
「だろ。試験終わって暇だったから片づけたんだよ」
「えらいえらい」
することも特になくて、私は凌のベッドにダイブした。
遊園地ではしゃぎすぎたのかもしれない。体が疲れたと訴えていた。