ついで、ふわり、視界が覆われ、瞬きの間に獏は眼前に迫っていた。
「方法を、一から教えてやる」
「へ・・・」
さっきまでの余裕はどこへやら。夢夜は体をのけぞらせ、逃げようとしたが、周りは湖だ。
完全に詰んだと絶望すれば、背に手をまわされ、強引に引き寄せられる。
至近距離で見上げる彼の顔。冷たさをはらんだ瞳には、今はあつい熱がこもっている。
どうやら、まずい引き金を引いてしまったらしい。
「ひえっ」
にやりと意地悪くほほ笑まれ、夢夜はほほが引きつった。
彼の両手は夢夜を囲って檻を作るように、逃さない。
「け、けっこうですっ」
「知りたいのだろう。手ほどきしてやる」
獏はうすいつややかな唇を開く。
「――まず、相手を眠らせる。これは当たり前だが」
獏はくいっと夢夜の顎を上向かせる。
「それから・・・」
(そ、それから・・・?)
夢夜は、ごくりとつばを飲み下した。緊張で声が出ない。
恥ずかしさとも違う。
彼の声が、表情が、仕草が、体の時が止まったように動かなくしてしまうのだ。
ゆっくり、彼は近づいてきた。
濡れた瞳、妖艶な唇がよせられ、夢夜はぎゅっと目をつぶる。――と。
ぱちん! と懐かしい痛みが額を襲った。
「いたっ!? なにするんですか!」
見れば、獏は親指を長い指でつまむようにしていた。ようするに、おでこを指で弾かれたのだ。
ふふん、と彼は勝ち誇ったように体を離すと、鼻でせせら笑った。
「ふっ、馬鹿め。この私がわざわざ人間の寝所に行くと思ったか、戯けが」
(か、からかわれた・・・!!)
夢夜はかあっと顔やら頭やらに血が登った。
勢いあまって、泉の水をすくって浴びせかける。
「ひどい! 本気で心配したのにっ。あなたはどうして、そう、わたしにやきもちばかりやかせるのですか! 楽しいですかっ!?」
「ああ、たのしいな」
ひょうひょうと言われ、夢夜は頭に血がのぼる。
獏は手を伸ばし、娘の手首をたやすく捕まえた。・・・ぐいっと、引き寄せる。
「う、わっ」
不安定な船のうえで、前のめりになった夢夜を受け止め、獏は満足げにほほえむ。
抱きしめながら、彼は言った。
「そなたといると楽しい。・・・だから、ずっと」

――ずっと、私のそばにいてほしい。

もがいていた夢夜の動きが停止する。
獏はほほえむと、その額に口づけを落とした。