『夢夜。次回の宴、期待しているぞ』
思わぬ救いの手だった。
獏は目を見開き、夢夜はあんぐりと口を開けていた。
(曽祖父(ひいおじい)さまから、期待されてしまった・・・)
無論、演奏を中止するためのただの口実だろうが、期待されたことには変わりない。
なにより、名前を呼んでもらえたのが嬉しかった。
咲紀は静かに座る。
新たな目的へむけて、思考は動き出していた。
(どうすれば、獏が手に入るの?)
獏は席へ戻ってくる。拍手喝采に包まれた会場。神々の興が削がれるのは、回避できたものの、新たな火種がくすぶりはじめていた。
宴は終了。咲紀は馬車へ乗り込む二人を呼び止めた。
「さっきは見事な演奏だったわ。でも、主上がおっしゃるように次はない。そんなお荷物、さっさと捨ててしまいなさいな」
(おにもつ・・・)
夢夜はうなだれた。やはり、咲紀の顔を見られない。でも最後まで出席できたのだ。それで充分ではないか。
獏はたっぷりと自信を含んだ声色で言った。
「夢夜には〈才女の華〉がある。今にわかることだ」
思わぬ言葉。咲紀は怪訝な顔をする。
獏は低く、唸るように続けた。
「最後の警告だ。――もう二度と、夢夜の前にあらわれるな」
「なん、ですって・・・!?」
咲紀は目をむく。
獏は夢夜を抱き上げると、強引に馬車に乗せ、自らも乗り込む。もう話すことはないと、その背は語っている。
「――・・・」
馬車の窓から覗く獏の顔。突き放されたにもかかわらず、咲紀は見とれた。
(獏・・。なんて薄情で、冷徹なの)
噂で聞いていた珍獣とはちがう。
さらりとした黒髪。どこか影のある美しい相貌。つめたい瞳。――容姿は次元の違う美しさだった。
咲紀は計画を変更した。
もともと、今日は機会があれば獏も大蛇の毒で殺すつもりだった。
夢夜に同伴してくるのはわかっていたことだったから。
しかし、気が変わった。
獏を、夫にしたい。
咲紀は爪を噛む。
大蛇のもとを出ていった後は、彼に嫁ぐことに決めたのだ。
思わぬ救いの手だった。
獏は目を見開き、夢夜はあんぐりと口を開けていた。
(曽祖父(ひいおじい)さまから、期待されてしまった・・・)
無論、演奏を中止するためのただの口実だろうが、期待されたことには変わりない。
なにより、名前を呼んでもらえたのが嬉しかった。
咲紀は静かに座る。
新たな目的へむけて、思考は動き出していた。
(どうすれば、獏が手に入るの?)
獏は席へ戻ってくる。拍手喝采に包まれた会場。神々の興が削がれるのは、回避できたものの、新たな火種がくすぶりはじめていた。
宴は終了。咲紀は馬車へ乗り込む二人を呼び止めた。
「さっきは見事な演奏だったわ。でも、主上がおっしゃるように次はない。そんなお荷物、さっさと捨ててしまいなさいな」
(おにもつ・・・)
夢夜はうなだれた。やはり、咲紀の顔を見られない。でも最後まで出席できたのだ。それで充分ではないか。
獏はたっぷりと自信を含んだ声色で言った。
「夢夜には〈才女の華〉がある。今にわかることだ」
思わぬ言葉。咲紀は怪訝な顔をする。
獏は低く、唸るように続けた。
「最後の警告だ。――もう二度と、夢夜の前にあらわれるな」
「なん、ですって・・・!?」
咲紀は目をむく。
獏は夢夜を抱き上げると、強引に馬車に乗せ、自らも乗り込む。もう話すことはないと、その背は語っている。
「――・・・」
馬車の窓から覗く獏の顔。突き放されたにもかかわらず、咲紀は見とれた。
(獏・・。なんて薄情で、冷徹なの)
噂で聞いていた珍獣とはちがう。
さらりとした黒髪。どこか影のある美しい相貌。つめたい瞳。――容姿は次元の違う美しさだった。
咲紀は計画を変更した。
もともと、今日は機会があれば獏も大蛇の毒で殺すつもりだった。
夢夜に同伴してくるのはわかっていたことだったから。
しかし、気が変わった。
獏を、夫にしたい。
咲紀は爪を噛む。
大蛇のもとを出ていった後は、彼に嫁ぐことに決めたのだ。

