夢夜は弾かれたように顔を上げた。
「まも、る・・・?」
生まれてこの方、誰かに護ってもらった記憶は少ない。
ましてや、はっきり護ると、宣言してくれる人なんて。
夢夜は、視界が潤んで見えなくなった。
なんて、あたたかくて心強い。
いっぽう、獏も思考を巡らせていた。
痛い視線が刺さる。みな、譲葉の孫としかみていない。夢夜は傷つくかもしれない。
だが、これは必ずつきまとう宿命のようなもの。乗り越えねば、曽祖父である天帝に顔も見せぬ不届き者と逆にいらぬ中傷を受ける。
獏は、逆に見せつける道を選んだ。
獏の身分は天上界でも高い。天帝直属の近臣だからだ。いっぽう、夢夜は天帝のひ孫にあたる。
獏がしっかりと夢夜を加護し、寵愛するさまを見せることで、周りも夢夜へ敬意を抱くだろう。びくびくして夢夜を隠してしまうより、堂々としている方がいい。
「行くぞ」
夢夜の肩へ手をまわす。
「はいっ!?」
急に肩を抱かれ、夢夜は飛び上がった。
大きな袖だ。彼の匂いにつつまれて安心する。
ここが、獏の腕の中が、いちばん安全な場所。
いっぽ、一歩、さくりと敷き詰められた水晶の玉砂利を踏む。
天界の宴が、はじまる。
屋敷にあがると、神々が順に天帝に挨拶していた。天帝の姿を見たものはいない。
つねに御簾越しに謁見するのだ。はるか上の天井から吊り下げられた御簾は、神の存在の大きさを物語っていた。
仲介役は月に住むうさぎ。
うさぎは若い女人の姿をしていた。獣の耳がピンと頭からまっすぐ伸び、来賓の声を聞き逃すまいとしている。手足にはふわふわの毛が生えており、愛らしい印象だった。
だが、話してみると、まったく可愛くない。
「あらあらっ! おやまあ、かわいらしい娘さんだ。獏さまのコレですか?」
小指を立てて片目をつぶってみせる仕草は、娘と言うより酔っぱらった中年男性のようだ。
獏は鬱陶(うっとう)しそうにうさぎを払い除け、列に並ぶ。
「夢夜。混んでいる。はぐれるな」
「は、はい・・・っ」
獏はうさぎから引き剥がすように、夢夜を引き寄せた。
「ちょっとぉ。無視しないでくださいよ」
うさぎは懲りずに絡んでくる。
いっぽう夢夜は、うさぎと聞けば食料としか見ていなかった。
(この耳、食べられるのかしら)
眼の前で揺れるおいしそうな耳。よだれをたらして夢夜は見つめる。
「はっ」
「まも、る・・・?」
生まれてこの方、誰かに護ってもらった記憶は少ない。
ましてや、はっきり護ると、宣言してくれる人なんて。
夢夜は、視界が潤んで見えなくなった。
なんて、あたたかくて心強い。
いっぽう、獏も思考を巡らせていた。
痛い視線が刺さる。みな、譲葉の孫としかみていない。夢夜は傷つくかもしれない。
だが、これは必ずつきまとう宿命のようなもの。乗り越えねば、曽祖父である天帝に顔も見せぬ不届き者と逆にいらぬ中傷を受ける。
獏は、逆に見せつける道を選んだ。
獏の身分は天上界でも高い。天帝直属の近臣だからだ。いっぽう、夢夜は天帝のひ孫にあたる。
獏がしっかりと夢夜を加護し、寵愛するさまを見せることで、周りも夢夜へ敬意を抱くだろう。びくびくして夢夜を隠してしまうより、堂々としている方がいい。
「行くぞ」
夢夜の肩へ手をまわす。
「はいっ!?」
急に肩を抱かれ、夢夜は飛び上がった。
大きな袖だ。彼の匂いにつつまれて安心する。
ここが、獏の腕の中が、いちばん安全な場所。
いっぽ、一歩、さくりと敷き詰められた水晶の玉砂利を踏む。
天界の宴が、はじまる。
屋敷にあがると、神々が順に天帝に挨拶していた。天帝の姿を見たものはいない。
つねに御簾越しに謁見するのだ。はるか上の天井から吊り下げられた御簾は、神の存在の大きさを物語っていた。
仲介役は月に住むうさぎ。
うさぎは若い女人の姿をしていた。獣の耳がピンと頭からまっすぐ伸び、来賓の声を聞き逃すまいとしている。手足にはふわふわの毛が生えており、愛らしい印象だった。
だが、話してみると、まったく可愛くない。
「あらあらっ! おやまあ、かわいらしい娘さんだ。獏さまのコレですか?」
小指を立てて片目をつぶってみせる仕草は、娘と言うより酔っぱらった中年男性のようだ。
獏は鬱陶(うっとう)しそうにうさぎを払い除け、列に並ぶ。
「夢夜。混んでいる。はぐれるな」
「は、はい・・・っ」
獏はうさぎから引き剥がすように、夢夜を引き寄せた。
「ちょっとぉ。無視しないでくださいよ」
うさぎは懲りずに絡んでくる。
いっぽう夢夜は、うさぎと聞けば食料としか見ていなかった。
(この耳、食べられるのかしら)
眼の前で揺れるおいしそうな耳。よだれをたらして夢夜は見つめる。
「はっ」

