懇親会当日。
夢夜をつれて獏は馬車にのった。
なれない華やかな衣装は、狐牡丹が気合を入れて選んだものだ。朱の上衣(うわぎ)には鳳凰が金糸で刺繍されている。桃の裳(も)は長く、気を抜くとうっかり踏んで転びそうだ。
「獏さま。わたし確実にこけます」
夢夜はいさぎよく言った。
「ころぶ前提か」
「不慣れな衣装をわたしなどに着せるからです」
「私のせいにするな。そなたはもう少し努力をしろ」
「無謀なことはやらない主義です。・・・もう帰らせてくださいよ」
泣き言をいう夢夜に、獏はため息をついた。
「出席者は皆、そなたが譲葉の孫だと期待している。別人だと見せつける必要があると思い、連れてきた。・・・転ぶのはむしろ、いいかもしれないな。盲点だった」
淡々と言う獏。
夢夜は「本気ですか」とうなだれた。