「どなたが噂を流したのか。獏様が嫁御を迎えられたと、噂で持ちきりです。主上も顔が見たいと」
主上は、天帝を指す。
どうしたものか。
獏はしばし思案した。沈黙が重い。
(わたし、噂になっているの?)
呆然と鏡を見つめる。目の色が変わっただけだ。自分は天女じゃないというのに。
獏はというと、夢夜の糸を確認するのが怖くて、見に行けないままでいることが気がかりだった。また、譲葉のように、天帝に反対されるのではと。
――しかし。
「わかった。夢夜も出席するから、そのように伝えてくれ」
狐牡丹は目を丸くした。
「獏様、夢夜様を神々の宴に行けせるには、まだ早いのでは?」
「わたし、作法も知りません。それに――尊い方の集まりなど、とても」
夢夜は言葉に詰まる。
(わたしは奴婢、だったから。そんな場所、生涯無縁だと思っていたの)
「失態を犯して、獏様に恥をかかせるわけにはまいりません」
夢夜はきっぱりと言った。
自信がないとか、そういう問題ではないのだ。
蝶の群れにダンゴムシが混入するようなものだ。そもそも、相容れないものだと思う。
だが獏は夢夜を立たせ、微笑んだ。
「案ずるな。私がそばにいる」
獏は思い直したのだ。誰に反対されようと、夢夜を手放す気はない、と。
(夢の糸など、確認する必要もない。――確認したところで、私は夢夜をそばに置く)
彼女をあきらめない。
もう、糸に翻弄されるのはたくさんだった。
夢夜は決意の硬い獏の笑顔を見つめる。
もう、嫌だと言えなくなってしまった。
主上は、天帝を指す。
どうしたものか。
獏はしばし思案した。沈黙が重い。
(わたし、噂になっているの?)
呆然と鏡を見つめる。目の色が変わっただけだ。自分は天女じゃないというのに。
獏はというと、夢夜の糸を確認するのが怖くて、見に行けないままでいることが気がかりだった。また、譲葉のように、天帝に反対されるのではと。
――しかし。
「わかった。夢夜も出席するから、そのように伝えてくれ」
狐牡丹は目を丸くした。
「獏様、夢夜様を神々の宴に行けせるには、まだ早いのでは?」
「わたし、作法も知りません。それに――尊い方の集まりなど、とても」
夢夜は言葉に詰まる。
(わたしは奴婢、だったから。そんな場所、生涯無縁だと思っていたの)
「失態を犯して、獏様に恥をかかせるわけにはまいりません」
夢夜はきっぱりと言った。
自信がないとか、そういう問題ではないのだ。
蝶の群れにダンゴムシが混入するようなものだ。そもそも、相容れないものだと思う。
だが獏は夢夜を立たせ、微笑んだ。
「案ずるな。私がそばにいる」
獏は思い直したのだ。誰に反対されようと、夢夜を手放す気はない、と。
(夢の糸など、確認する必要もない。――確認したところで、私は夢夜をそばに置く)
彼女をあきらめない。
もう、糸に翻弄されるのはたくさんだった。
夢夜は決意の硬い獏の笑顔を見つめる。
もう、嫌だと言えなくなってしまった。

