「何事ですか、主様!」
狐牡丹が遅れてやってくる。獏と同じく膝を付き、夢夜の異変を心配げに覗き込んだ。
獏はそっと、「見せてみろ」とその手をはがす。その小ささに戸惑いながら、ふたたび顔を上げ、目を見張った。
「瞳の・・・色が!」
紫水晶のような瞳だった。
白夜のような淡い色だった瞳は、一転、宝石を散りばめたような輝きを持つ紫の瞳へ。
どう見ても、人間のなせる技ではない。
狐牡丹は手を叩いて喜んだ。
「お嬢様、お喜びください! 眠っていたお祖母様の血が開花したのですよ!」
「どういうことだ」
獏は問う。哀れ、状況についていけない夢夜は、ぽろぽろと涙をこぼしていた。それでさえ見惚れるほどに美しい。
「天女は苦労すると、途端に輝きを失います。銀髪は黒髪へ、しおれた花のようにしぼんで、やがて枯れてしまうのです」
狐牡丹はゆめ夜の肩をたたく。
「その逆もしかり。夢夜様はこれまで相当苦労して来られました。それが今や旦那様に愛されてしぼんでいた華が咲き始めたのです」
それには、二人とも言葉を失った。
(私に愛されて、夢夜は幸せになったと・・・?)
(わたし、愛されて喜んでいるの・・・?)
たがいに顔を合わせ・・・目をそらした。
狐牡丹はさらにあおる。
「これからお嬢様は、さらに愛が開花しておきれいになられます。旦那様、ご覚悟を」
「・・・なんの覚悟だ」
獏は警戒していると、狐牡丹はきっぱりという。
「お嬢様を泥棒猫に取られないよう、警護を固めるのです! とくにあの、仙人様や他の神々にもご注意を」
後半、声が低められた。それだけで獏は察する。
「・・・忠告、痛み入る」
お子ちゃま仙人は、いまでこそ子供だが、成長すれば美女が山ほどいいよってくる美男子だ。
しかも女好きと来ている。警戒せねば。
夢夜は何がなんだかわからず、おどおどとしていたが、獏が妙に殺気がみなぎっているので黙っておいた。
(わたし、天女になっちゃうの?)
祖母と似ているのは嬉しい反面、複雑だ。
また、譲葉と重ねて見られてしまうのかとおもうと、気が重くなった。
すると、侍女が駆け寄ってきて、狐牡丹に耳打ちした。
「なんですって? 宴の開催が早まった?」
狐牡丹はすっとんきょうな声を上げた。
高天原と桃源郷の懇親会だ。神仙から八百万の神々まで、幅広く出席する。
狐牡丹は困り顔で頬に手を添える。
狐牡丹が遅れてやってくる。獏と同じく膝を付き、夢夜の異変を心配げに覗き込んだ。
獏はそっと、「見せてみろ」とその手をはがす。その小ささに戸惑いながら、ふたたび顔を上げ、目を見張った。
「瞳の・・・色が!」
紫水晶のような瞳だった。
白夜のような淡い色だった瞳は、一転、宝石を散りばめたような輝きを持つ紫の瞳へ。
どう見ても、人間のなせる技ではない。
狐牡丹は手を叩いて喜んだ。
「お嬢様、お喜びください! 眠っていたお祖母様の血が開花したのですよ!」
「どういうことだ」
獏は問う。哀れ、状況についていけない夢夜は、ぽろぽろと涙をこぼしていた。それでさえ見惚れるほどに美しい。
「天女は苦労すると、途端に輝きを失います。銀髪は黒髪へ、しおれた花のようにしぼんで、やがて枯れてしまうのです」
狐牡丹はゆめ夜の肩をたたく。
「その逆もしかり。夢夜様はこれまで相当苦労して来られました。それが今や旦那様に愛されてしぼんでいた華が咲き始めたのです」
それには、二人とも言葉を失った。
(私に愛されて、夢夜は幸せになったと・・・?)
(わたし、愛されて喜んでいるの・・・?)
たがいに顔を合わせ・・・目をそらした。
狐牡丹はさらにあおる。
「これからお嬢様は、さらに愛が開花しておきれいになられます。旦那様、ご覚悟を」
「・・・なんの覚悟だ」
獏は警戒していると、狐牡丹はきっぱりという。
「お嬢様を泥棒猫に取られないよう、警護を固めるのです! とくにあの、仙人様や他の神々にもご注意を」
後半、声が低められた。それだけで獏は察する。
「・・・忠告、痛み入る」
お子ちゃま仙人は、いまでこそ子供だが、成長すれば美女が山ほどいいよってくる美男子だ。
しかも女好きと来ている。警戒せねば。
夢夜は何がなんだかわからず、おどおどとしていたが、獏が妙に殺気がみなぎっているので黙っておいた。
(わたし、天女になっちゃうの?)
祖母と似ているのは嬉しい反面、複雑だ。
また、譲葉と重ねて見られてしまうのかとおもうと、気が重くなった。
すると、侍女が駆け寄ってきて、狐牡丹に耳打ちした。
「なんですって? 宴の開催が早まった?」
狐牡丹はすっとんきょうな声を上げた。
高天原と桃源郷の懇親会だ。神仙から八百万の神々まで、幅広く出席する。
狐牡丹は困り顔で頬に手を添える。

