「わたし、気に障るようなこと、しました・・・?」
おそるおそる尋ねると、獏はようやく離れてくれた。
「仕返しだ」
「・・・何のですか?」
夢夜がたずねると、ついっと目をそらす。
「そなたに毎晩覗かれた、仕返しだ」
それって、もしや。
(獏様も、恥ずかしかったってこと・・・?)
思い至り、夢夜はまた顔から火が出そうだった。
気まずい沈黙。・・・でも心がぬくい。
やがて。
「・・・行こうか」
獏は手を差し出す。以前は袖をのばし、極力触れないようにしていた手だ。
今度は逃さないように、でも蝶を捕まえるようなやさしい手つきで、獏は夢夜の手を取った。

・・・それは、夢の始まりにすぎない。

まだ実感がない夢夜は、ずっとこの夢が続けばいいのにと思いながら、ゆるみきった唇を引きしめた。