「ば、獏、さま・・・?」
おそるおそる、涙目で額をおさえながら問う。獏は体を離すと、ぽつりと言った。
「上書きだ」
夢夜は、目を見開いた。
――うわ、がき・・・?
ぼうっと、真っ白になったあたま。棒立ちになった足を、よそ風がくすぐっていく。
もう、なにも言えない。
ぽろぽろと、瞳から涙がこぼれ落ちる。
口を抑え、こみ上げるおえつ。
『上書き』たった一言だ。でも、その言の葉は絶大な癒しをもたらした。
なかったことにはできない。
でももう、振り返らなくていい。
そう言われた気がして。
・・・泣いていると悟られたくない。
夢夜は身をかがめて顔を伏せ、浅い呼吸を繰り返す。
ゆえに、獏がなにをしていたのか、わからなかった。
夢夜が次に顔をあげたとき、目の前は真っ白になっていた。いや、真っ白になったのは頭の中ではなく、眼前で芳しい香りをはなつヤマユリの花束だ。
「・・・・・・・・やる」
獏は、気恥ずかしそうに顔をそらした。耳から頬までまで染まったその顔に、嘘も後ろめたさもなかった。
夢夜は、ついていかない頭の中で、ただ一つの理解をした。
――わたしは・・・、この人が愛しい。
すこし偉そうなつめたい相貌。でも中身はとてもあつく、やさしくて。
これは好きよりもっと、もっと大きい――・・・。
その思いに気づいた時、娘は頭から湯気が吹き出るかと思った。
恥ずかしくて目を合わせられない。こちらを不安げに見つめてくる彼には申し訳ないが、この思いに気づいたらもう、以前のように見つめ返すことなどできそうになかった。
ああ、わたしはこの人が愛しいのだ。
好きよりもっと、大好きよりもっと。それすら通り越して、魂の奥深くで結ばれたいと願う気持ち。生涯をかけて、片時も離れたくないこの思いは。
もう、恋以上だ。
「す、すみません・・・」
らしくなく夢夜は謝罪した。獏は(気を悪くしたのか)とぎょっとしたが、花束に顔を埋もれさせうつむく夢夜の頬も耳も赤く染まっているのに気づき、頬が緩む。
かわいらしい、と思った。
夢夜が、たまらなくかわいい。愛おしい。
だからついつい、意地悪をしてやりたくなった。
「花は嫌いか?」
「い、いいえっ」
「では、私は好きか?」
「い、いいえ・・・、あ」
わざとらしくしょんぼりした獏。夢夜はうろたえ、顔を見上げ――はめられたと気づいた。
おそるおそる、涙目で額をおさえながら問う。獏は体を離すと、ぽつりと言った。
「上書きだ」
夢夜は、目を見開いた。
――うわ、がき・・・?
ぼうっと、真っ白になったあたま。棒立ちになった足を、よそ風がくすぐっていく。
もう、なにも言えない。
ぽろぽろと、瞳から涙がこぼれ落ちる。
口を抑え、こみ上げるおえつ。
『上書き』たった一言だ。でも、その言の葉は絶大な癒しをもたらした。
なかったことにはできない。
でももう、振り返らなくていい。
そう言われた気がして。
・・・泣いていると悟られたくない。
夢夜は身をかがめて顔を伏せ、浅い呼吸を繰り返す。
ゆえに、獏がなにをしていたのか、わからなかった。
夢夜が次に顔をあげたとき、目の前は真っ白になっていた。いや、真っ白になったのは頭の中ではなく、眼前で芳しい香りをはなつヤマユリの花束だ。
「・・・・・・・・やる」
獏は、気恥ずかしそうに顔をそらした。耳から頬までまで染まったその顔に、嘘も後ろめたさもなかった。
夢夜は、ついていかない頭の中で、ただ一つの理解をした。
――わたしは・・・、この人が愛しい。
すこし偉そうなつめたい相貌。でも中身はとてもあつく、やさしくて。
これは好きよりもっと、もっと大きい――・・・。
その思いに気づいた時、娘は頭から湯気が吹き出るかと思った。
恥ずかしくて目を合わせられない。こちらを不安げに見つめてくる彼には申し訳ないが、この思いに気づいたらもう、以前のように見つめ返すことなどできそうになかった。
ああ、わたしはこの人が愛しいのだ。
好きよりもっと、大好きよりもっと。それすら通り越して、魂の奥深くで結ばれたいと願う気持ち。生涯をかけて、片時も離れたくないこの思いは。
もう、恋以上だ。
「す、すみません・・・」
らしくなく夢夜は謝罪した。獏は(気を悪くしたのか)とぎょっとしたが、花束に顔を埋もれさせうつむく夢夜の頬も耳も赤く染まっているのに気づき、頬が緩む。
かわいらしい、と思った。
夢夜が、たまらなくかわいい。愛おしい。
だからついつい、意地悪をしてやりたくなった。
「花は嫌いか?」
「い、いいえっ」
「では、私は好きか?」
「い、いいえ・・・、あ」
わざとらしくしょんぼりした獏。夢夜はうろたえ、顔を見上げ――はめられたと気づいた。

