「・・・しろい、毛皮・・・?」
モコモコとしていて、非常に愛らしい。布地には銀の糸で細かな花の刺繍がほどこされている。・・・なにかの装飾品だろうか? 天上界にくわしくない夢夜は瞬(またた)く。
獏は仏頂面で言った。
「白兎の毛であしらった靴だ。夏場でも涼しいよう、通気性を良くしてある」
「・・・・・・・・・これを、わたしに?」
夢夜は目を丸くする。頬が、ほんのりと染まった。
キクラゲを取りに行った帰り、彼は『靴を買ってやる』とは言っていたけれど。まさか本当に・・・。覚えていてくれたなんて。
「獏さま。わたし、いまとっても幸せです」
夢夜は感極まり、靴をぎゅっと抱きしめ、頬ずりした。
「飾りではない。・・・履け」
獏はもごもごと言う。
真顔だが、髪から覗く耳は、ほのかに赤い。
獏と夢夜は庭へ向かう。
初対面の夜より、彼は歩幅を合わせて歩いてくれていた。その事実がたまらなくうれしい。
夢夜はそっと、その大きな手に指をからめようと手を伸ばし・・・ためらった。
(お嫌では、ないかな?)
あまりの嬉しさに、舞い上がっているのは自分だけだろうか。だとするならば、この行為はかえって彼の重荷になってしまうのでは?
夢夜がもごもごと口の中で不安をころがしていると、するりと大きな手につつまれた。
――手を、握ってくれている・・・!
夢夜は飛び上がりそうになった。
獏は変わらず、真顔だ。唇を引き結んでいる。しかし隠しきれない高揚は、赤く染まった耳、手のひらのじっくりとした汗で容易に悟れた。
(き、緊張がうつるわ)
繋がれた手から、互いの心臓の鼓動が伝わってしまうようで。ふたりとも目を合わせられないまま、長い廊下を通過し、庭へ繰り出した。
「見せたいものとは、なんですか?」
庭をぬけ、草の生い茂る草原へ連れ出された夢夜は、きょとんと首をかしげた。
「すぐにわかるさ」
獏ははにかむ。
(・・・はじめて笑ってくれた!)
至近距離でほほ笑まれ、夢夜は足が宙に浮いたような、雲の上に立っているような心地がした。
どこか影を感じる美しい相貌。そこから自分にだけ向けられる、無垢(むく)なほほえみは、この世のどの花より儚く、美しい。
彼には、もっともっと、笑顔が似合う人になってほしいと、願っている。
でも。
――ひとりじめしたい・・・なぁ。
モコモコとしていて、非常に愛らしい。布地には銀の糸で細かな花の刺繍がほどこされている。・・・なにかの装飾品だろうか? 天上界にくわしくない夢夜は瞬(またた)く。
獏は仏頂面で言った。
「白兎の毛であしらった靴だ。夏場でも涼しいよう、通気性を良くしてある」
「・・・・・・・・・これを、わたしに?」
夢夜は目を丸くする。頬が、ほんのりと染まった。
キクラゲを取りに行った帰り、彼は『靴を買ってやる』とは言っていたけれど。まさか本当に・・・。覚えていてくれたなんて。
「獏さま。わたし、いまとっても幸せです」
夢夜は感極まり、靴をぎゅっと抱きしめ、頬ずりした。
「飾りではない。・・・履け」
獏はもごもごと言う。
真顔だが、髪から覗く耳は、ほのかに赤い。
獏と夢夜は庭へ向かう。
初対面の夜より、彼は歩幅を合わせて歩いてくれていた。その事実がたまらなくうれしい。
夢夜はそっと、その大きな手に指をからめようと手を伸ばし・・・ためらった。
(お嫌では、ないかな?)
あまりの嬉しさに、舞い上がっているのは自分だけだろうか。だとするならば、この行為はかえって彼の重荷になってしまうのでは?
夢夜がもごもごと口の中で不安をころがしていると、するりと大きな手につつまれた。
――手を、握ってくれている・・・!
夢夜は飛び上がりそうになった。
獏は変わらず、真顔だ。唇を引き結んでいる。しかし隠しきれない高揚は、赤く染まった耳、手のひらのじっくりとした汗で容易に悟れた。
(き、緊張がうつるわ)
繋がれた手から、互いの心臓の鼓動が伝わってしまうようで。ふたりとも目を合わせられないまま、長い廊下を通過し、庭へ繰り出した。
「見せたいものとは、なんですか?」
庭をぬけ、草の生い茂る草原へ連れ出された夢夜は、きょとんと首をかしげた。
「すぐにわかるさ」
獏ははにかむ。
(・・・はじめて笑ってくれた!)
至近距離でほほ笑まれ、夢夜は足が宙に浮いたような、雲の上に立っているような心地がした。
どこか影を感じる美しい相貌。そこから自分にだけ向けられる、無垢(むく)なほほえみは、この世のどの花より儚く、美しい。
彼には、もっともっと、笑顔が似合う人になってほしいと、願っている。
でも。
――ひとりじめしたい・・・なぁ。

