「そなたが孫娘と知ったとき、私は半信半疑ながら譲葉の面影をさがし・・・同時におびえていた」
獏は空を見上げた。
「譲葉の面影を見るのが怖かったのだ、私は。・・・また、あの別れを思い出すのが嫌だったのだ。でも、何度でもそなたは私に気づかせようとしてくれたな。譲葉とは似ていないと。私はあの時ハッとした」
「あのとき、とは・・・?」
「そなたが月夜に舞っていた、あの夜だ」
娘は目を平べったくした。
(あのとき、べろべろに酔っ払っていたから)
それは似ていなくて当然だ。しかし、獏はまじめに続けた。
「そなたを譲葉の分身のように見ていた。・・・すまなかった」
娘は間抜けな理由が気取られないよう、つんと胸をそらした。
「まったくです。・・・私の気持ちも知らないで」
獏は、足を止めた。
とくん、とくんと、ほわりとぬくもりが駆け巡る。
それは、つまり・・・?
娘は、その首にぎゅっとしがみつく。
「わたしは、獏さまに青春をささげるつもりです」
また心臓が跳ねた。先程とはまったく違う。どきどきと、背に乗る彼女も感じてしまうくらい。
「私はそなたに合わせる顔すらないのに・・・」
「話はまだ、終わっていませんよ?」
彼女は謝罪をさえぎり、続ける。
「この際だから、言わせていただきます。人は、幸せになるために生きているのです。だから、獏さまはもっと、幸せに貪欲になってください」
「・・・幸せに?」
考えたこともなかった。ずっと、不幸であることが、譲葉のためであるかのように、いつのまにか自分で自分を洗脳していた。
娘は言う。
「亡くなった方が願うのは、残されたものたちの健康と幸福です。だから獏様は、おいしいごはんをいっぱい食べて、いっぱい寝て、元気であらねばならないのです」
それで、食事を作っていたのか。
合点がいき、同時に視界が潤んできて、おんぶで良かったと心底思った。
ぽつりという。
「私は、心の何処かで、一部ののぞみを託していた。いや、違う。彼女が幸せでいることを、本気で望んでいたのだ、私は」
「はい。獏様は、ほんとうに素敵な方ですね」
娘はぽんぽんと、その頭を撫でる。はるか年下の女性に慰められるなど、情けないことこの上ないが、不思議と悪い気は起きなかった。
五十年の苦渋が救われたような。
前を向く勇気をあたえられているような。
獏は空を見上げた。
「譲葉の面影を見るのが怖かったのだ、私は。・・・また、あの別れを思い出すのが嫌だったのだ。でも、何度でもそなたは私に気づかせようとしてくれたな。譲葉とは似ていないと。私はあの時ハッとした」
「あのとき、とは・・・?」
「そなたが月夜に舞っていた、あの夜だ」
娘は目を平べったくした。
(あのとき、べろべろに酔っ払っていたから)
それは似ていなくて当然だ。しかし、獏はまじめに続けた。
「そなたを譲葉の分身のように見ていた。・・・すまなかった」
娘は間抜けな理由が気取られないよう、つんと胸をそらした。
「まったくです。・・・私の気持ちも知らないで」
獏は、足を止めた。
とくん、とくんと、ほわりとぬくもりが駆け巡る。
それは、つまり・・・?
娘は、その首にぎゅっとしがみつく。
「わたしは、獏さまに青春をささげるつもりです」
また心臓が跳ねた。先程とはまったく違う。どきどきと、背に乗る彼女も感じてしまうくらい。
「私はそなたに合わせる顔すらないのに・・・」
「話はまだ、終わっていませんよ?」
彼女は謝罪をさえぎり、続ける。
「この際だから、言わせていただきます。人は、幸せになるために生きているのです。だから、獏さまはもっと、幸せに貪欲になってください」
「・・・幸せに?」
考えたこともなかった。ずっと、不幸であることが、譲葉のためであるかのように、いつのまにか自分で自分を洗脳していた。
娘は言う。
「亡くなった方が願うのは、残されたものたちの健康と幸福です。だから獏様は、おいしいごはんをいっぱい食べて、いっぱい寝て、元気であらねばならないのです」
それで、食事を作っていたのか。
合点がいき、同時に視界が潤んできて、おんぶで良かったと心底思った。
ぽつりという。
「私は、心の何処かで、一部ののぞみを託していた。いや、違う。彼女が幸せでいることを、本気で望んでいたのだ、私は」
「はい。獏様は、ほんとうに素敵な方ですね」
娘はぽんぽんと、その頭を撫でる。はるか年下の女性に慰められるなど、情けないことこの上ないが、不思議と悪い気は起きなかった。
五十年の苦渋が救われたような。
前を向く勇気をあたえられているような。

