「・・・すまなかった。でもそれは違うと、誓う」
(ちがうの? じゃあ、なんでわたしを・・・?)
娘は頬を赤らめる。
獏は吐露しはじめた。
「譲葉を幸せにすると誓ったあの日。私は掟を破り、ふたりの糸を結んだ。――その翌日、譲葉は倒れた。私は夢の糸で多くの神々や罪人を処刑してきた。その報いなのか・・・。すぐさま原因を悟った天帝に呼び出された」
開口一番、天帝は糸を切れと言った。
『本来つながるはずのなかった仲を、無理やりつなぐと死期が迫る。それを知らぬお前ではあるまい』・・・と。
獏は皮肉げに顔をゆがめる。
「私は目の前の恋に盲目していたのだ。自分たちは例外だと、高をくくっていた」
天帝から突きつけられた現実。
「私は譲葉の看病に明け暮れた。引き伸ばせば譲葉は死ぬ。糸を切れば助かる。単純明快な事実だ。単純すぎて・・・あっけなさ過ぎて。やるせなかった」
――君と一緒にいる時間を、どうしても引き伸ばしてしまう。
「彼女は、迷わなかった。糸を切ることは望まなかった」
『わたしはね、獏。あなたと一緒にいられるのなら、このまま命尽きてもかまわないの』
だから切らないで。
わたしを、ひとりにしないで!
「日を負うごとに衰弱していく譲葉を、見ていられなかった。私は心底苦しんだ。あの日、『愛している』と伝えるべきだったのか。言わずにいて正解だったのか」
譲葉が倒れてからの毎日は、生き地獄だった。
互いに離れ離れでは生きられない気がしてならなかった。獏は、譲葉がそばにいることがいつしか、自分の存在意義と感じていた。
譲葉も同じ。
獏がいない生活に戻ることなど、考えられなかった。
『獏・・・。わたし、こわいの。こわくてたまらないの・・・っ!』
何度、共に泣いたことだろう。しだいに涙は枯れ果て、譲葉は涙を流す気力さえ失い始めていた。
「そしてついに、譲葉は危篤になった」
獏は一旦、言葉を切った。
背に負う娘は、かたく口を閉ざしたまま、何も言わなかった。
「だから、私は、糸を切る道を選んだ。譲葉を生かす道を。共に歩むことをあきらめて。それも愛情のかたちだと、思った」
譲葉が姿を消したと聞いたのは、糸を切った翌日だった。
獏はいつまでも、ユズリハの木の前で立ち尽くしていた。
(ちがうの? じゃあ、なんでわたしを・・・?)
娘は頬を赤らめる。
獏は吐露しはじめた。
「譲葉を幸せにすると誓ったあの日。私は掟を破り、ふたりの糸を結んだ。――その翌日、譲葉は倒れた。私は夢の糸で多くの神々や罪人を処刑してきた。その報いなのか・・・。すぐさま原因を悟った天帝に呼び出された」
開口一番、天帝は糸を切れと言った。
『本来つながるはずのなかった仲を、無理やりつなぐと死期が迫る。それを知らぬお前ではあるまい』・・・と。
獏は皮肉げに顔をゆがめる。
「私は目の前の恋に盲目していたのだ。自分たちは例外だと、高をくくっていた」
天帝から突きつけられた現実。
「私は譲葉の看病に明け暮れた。引き伸ばせば譲葉は死ぬ。糸を切れば助かる。単純明快な事実だ。単純すぎて・・・あっけなさ過ぎて。やるせなかった」
――君と一緒にいる時間を、どうしても引き伸ばしてしまう。
「彼女は、迷わなかった。糸を切ることは望まなかった」
『わたしはね、獏。あなたと一緒にいられるのなら、このまま命尽きてもかまわないの』
だから切らないで。
わたしを、ひとりにしないで!
「日を負うごとに衰弱していく譲葉を、見ていられなかった。私は心底苦しんだ。あの日、『愛している』と伝えるべきだったのか。言わずにいて正解だったのか」
譲葉が倒れてからの毎日は、生き地獄だった。
互いに離れ離れでは生きられない気がしてならなかった。獏は、譲葉がそばにいることがいつしか、自分の存在意義と感じていた。
譲葉も同じ。
獏がいない生活に戻ることなど、考えられなかった。
『獏・・・。わたし、こわいの。こわくてたまらないの・・・っ!』
何度、共に泣いたことだろう。しだいに涙は枯れ果て、譲葉は涙を流す気力さえ失い始めていた。
「そしてついに、譲葉は危篤になった」
獏は一旦、言葉を切った。
背に負う娘は、かたく口を閉ざしたまま、何も言わなかった。
「だから、私は、糸を切る道を選んだ。譲葉を生かす道を。共に歩むことをあきらめて。それも愛情のかたちだと、思った」
譲葉が姿を消したと聞いたのは、糸を切った翌日だった。
獏はいつまでも、ユズリハの木の前で立ち尽くしていた。

