(私は何をやっていた。自分で連れてきておきながら。ここには誰も傷つけるものはいないと約束しておきながら)
獏が自責の念にかられている間も、彼女はキクラゲ取りに夢中で気づかない。背に背負ったかごにいっぱい詰め、満足げに笑う。
そして引き返そうとし、――・・・足を踏み外した。
「・・・あ」
みるみる落ちていくその小柄な体を地面に叩きつけられる前に、獏はふわりと宙を飛び、娘を両腕に受け止めると、そのまま軽々と着地した。
「ばく、さま?」
娘は目を丸くして見上げた。
「なぜ、こんな無茶を?」
獏は唇を噛む。
「私はずっとお前を放置していた。いや、忘れているときすらあったのだ。なのに、なぜ、私のためにここまでする?」
「・・・」
娘は、そっと獏の顔に手を添えた。
「・・・久しぶりに近くでみるお顔・・・・。お元気そうでよかった」
「っ」
そのとき、獏は初めて、ちゃんと娘の顔を見た。
生き生きとした顔は生命にみなぎり、思い出の中の美しい女性とは違い、汗の匂い、呼吸の音、息遣いなど、彼女のすべてが獏を現実に引き戻してゆく。
娘は悟ったようだ。
ほほえみ、
「私はお祖母様には似ていないでしょう?」
という。
体がびくりとこわばった。
娘は言う。
「あいにく、私は天女の血を引いていると言っても、四等分の一なのです。天上界の方々は、こんな泥まみれの汚い手はしていないでしょう」
娘はどっこいしょ、と獏の手から滑り降りると、かごを担ぎ直し、ひとり山を降りる。
取り残された獏は、苦笑した。
負けだ。
完璧に、彼女の勝ちだ。
ふと、娘の足に目がいった。
その足は擦りむいて血が滲んでいる。
獏は後を追うと、先回りし、娘の前で膝をついた。
「・・・乗れ」
おんぶしてやろうということか。
娘は「けっこうです」と首を振ったが、「・・・すまなかった」と獏はぽつりといった。
「もう、おまえと譲葉を重ねて見たりしない。誓う」
「・・・ふう」
娘は深く息をつくと、素直に身を委ねた。
軽すぎるそれを、獏はひとゆすりし、山を降りはじめた。
「私と譲葉の関係を知ったのはいつからだ?」
「最初から。くわしくは狐牡丹さんと仙人様にききました。・・・私を拾ったのは、おばあさまに似ていたから、なんですか?」
獏は気まずげに沈黙したが、もうすべてお見通しだろう。
だがひとつ、訂正したい。
獏が自責の念にかられている間も、彼女はキクラゲ取りに夢中で気づかない。背に背負ったかごにいっぱい詰め、満足げに笑う。
そして引き返そうとし、――・・・足を踏み外した。
「・・・あ」
みるみる落ちていくその小柄な体を地面に叩きつけられる前に、獏はふわりと宙を飛び、娘を両腕に受け止めると、そのまま軽々と着地した。
「ばく、さま?」
娘は目を丸くして見上げた。
「なぜ、こんな無茶を?」
獏は唇を噛む。
「私はずっとお前を放置していた。いや、忘れているときすらあったのだ。なのに、なぜ、私のためにここまでする?」
「・・・」
娘は、そっと獏の顔に手を添えた。
「・・・久しぶりに近くでみるお顔・・・・。お元気そうでよかった」
「っ」
そのとき、獏は初めて、ちゃんと娘の顔を見た。
生き生きとした顔は生命にみなぎり、思い出の中の美しい女性とは違い、汗の匂い、呼吸の音、息遣いなど、彼女のすべてが獏を現実に引き戻してゆく。
娘は悟ったようだ。
ほほえみ、
「私はお祖母様には似ていないでしょう?」
という。
体がびくりとこわばった。
娘は言う。
「あいにく、私は天女の血を引いていると言っても、四等分の一なのです。天上界の方々は、こんな泥まみれの汚い手はしていないでしょう」
娘はどっこいしょ、と獏の手から滑り降りると、かごを担ぎ直し、ひとり山を降りる。
取り残された獏は、苦笑した。
負けだ。
完璧に、彼女の勝ちだ。
ふと、娘の足に目がいった。
その足は擦りむいて血が滲んでいる。
獏は後を追うと、先回りし、娘の前で膝をついた。
「・・・乗れ」
おんぶしてやろうということか。
娘は「けっこうです」と首を振ったが、「・・・すまなかった」と獏はぽつりといった。
「もう、おまえと譲葉を重ねて見たりしない。誓う」
「・・・ふう」
娘は深く息をつくと、素直に身を委ねた。
軽すぎるそれを、獏はひとゆすりし、山を降りはじめた。
「私と譲葉の関係を知ったのはいつからだ?」
「最初から。くわしくは狐牡丹さんと仙人様にききました。・・・私を拾ったのは、おばあさまに似ていたから、なんですか?」
獏は気まずげに沈黙したが、もうすべてお見通しだろう。
だがひとつ、訂正したい。

