獏の夢結び

「おばあさまはなんでも持ってらっしゃった。美しい容姿も。美しい舞も。獏さまの愛も。――私は見ての通り、美しい手足も、細い指も、銀の髪もありません。・・・体だって、古傷だらけで、あのような露出した衣装、着られません」
背中の古傷は、一生のこる。
犯してもいない罪を背負わされた気分だ。なにも悪いことはしていないのに。どうして自分ばかりこんな目にばかりあうのだろう?
娘は、無理にはにかんでみせた。
その笑顔は――〈あきらめ〉。
天女と自分とは一切、関わりがないことだと。
もう、譲葉のような才女だと期待しないでほしい。そう言っているようだった。

祖母と比較されるたびに、心から血が吹き出すような感覚を覚える。

もっと違う家に生まれていたら。
最初から天上界で、天女に生まれていたら。
こんな暴力にまみれた惨めで悲惨な人生を、歩まずにすんだ。
そう思ってしまう。優雅に舞い、己の美しさに自身を持って人前に出られる苦労知らずの天女たちが、どうしようもなくうらめしかった。

(もう、これ以上、わたしを惨めにさせないで)
娘は鼻の奥がつんとうずいた。
膝を抱える。眼下には、女の子なら夢中になる世界が広がっている。
自分には縁遠い世界。もう二度と、見たくはない。
なのに。

――ああ、なのに惹きつけられる。

心とは、なぜこんなに正直なのか。
娘はしみじみと舞に見とれた。
いずれも見たことがない衣装、振り付け。

――きれい・・・。

素直に、そう思った。
ただ、それだけ。
・・・・・・それだけだ。
でも、脳にはしっかりと振り付けがすべて記憶された。
(まあ、いいさ)
仙人は、娘から視線を背後へ移した。
木の枝が不自然に揺れている。〈誰か〉が身を潜めているのだ。
気になってあとをつけてきた。出てくる度胸もなく、身を隠すしょうがない男には、ちょうどいい刺激になっただろう。――仙人はほくそ笑む。

夕方になり、仙人に帰宅をうながされるまで、娘は憂い顔でじっと舞を愛でていた。




夜更け。
娘は獏の部屋を、庭の同じ場所から眺めていた。
びしょ濡れにされた部屋の掃除は狐牡丹たちががんばったらしい。仙人はどこぞに雲隠れし、獏は戻らないままだ。
(今夜は帰ってこないのかしら)
残念だ。会話もままならない今、彼を愛でるのはゆいいつの至福の時間だというのに。