獏の夢結び

水たまりの空間は、夢幻の世界から離れ、天界に通じていた。
娘と仙人は、ふわりと水晶の玉砂利に降りた。どこかの屋敷の通路のようだ。獏の屋敷より、はるかに豪勢で手入れが行き届いている。
「危なかったなぁ」
火喰は額の汗をぬぐった。娘は眉尻を下げる。
「だいじょうぶでしょうか。怒られるんじゃ・・・」
「女にばっかり任せてた報いさ。それに、あの程度でキレるやつじゃねえよ」
そうだろうか。とてもお怒りに見えたけれど。
(まあ、いいか)
男の子の友情は、よくわからないが、仙人が長年の友なら、任せていいのかもしれない。
思い直し、娘は辺りを見渡した。
まるで城のような巨大すぎる建物がそびえ立っていた。
石を幾重にも積み上げた城壁は空に届きそう。見上げるだけで首が痛くなる。
黄色の瓦屋根は黄金のようにまばゆく、地平線まで続いているようだった。奥に行けば行くほど霧で霞んで見えないほど。
階段は白い大理石でつくられていた。火喰と娘がいるのは階段へ続く通路だ。楓の樹の木陰に身を潜め、ふたりは石畳の広間を見下ろした。
華やかな羽衣がひらひらと、繚乱の花びらように舞っている。
どうやら宴に備えて練習があっているらしい。芸妓たちが数名で踊っていた。
「天女たちだよ」
仙人は耳打ちする。
「今度、天帝の宴が開かれるから、稽古してんだ。・・・ほら」
ちいさな指で、とりわけ華やかな衣装の女性を指差す。先頭と脇役では衣装の色も作りも違うようだ。
「先頭で舞ってる彼女が、いま天界一、舞の名手の天女だ。彼女は譲葉がいなくなったから先頭で舞えるが、以前は背後で譲葉の引き立て役だったんだぜ」
娘は目を丸くした。
「おばあさまは、舞いがお上手だったのですか?」
「あたりめーだ。譲葉ほどの名手は、もう現れないだろうなぁ」
娘はしげしげと練習に明け暮れる天女たちを見つめた。
祖母が、あそこで踊っていたというのか。
「見てみな。先頭の彼女の髪の色を」
「・・・金色、ですね?」
娘は怪訝な顔をする。
「お前のばあさんは、銀色の髪をしてたよ」
仙人は懐かしそうに笑う。娘ははっとした。
「月光のように綺麗だった。みんな羨ましがったもんさ。天女の多くは黒髪だ。天性の才女にしか、あの髪の色は出ないからな」
「・・・私は、比べられて当然ですね」
ぽつりと娘は言った。