獏の夢結び

あわわ・・・! と顔を真赤にしてうろたえる娘。仙人はその頭をぎゅっと抑え込んで、一緒に身を伏せるようにうながす。
「まあ、見てな。おもしれぇもんが見られるぜ」
「な、なにをするおつもりですかっ?」
仙人は、杖をかるく一振りした。
途端、天候は悪化。
樽を引っくり返したような雨が、暴風とともに屋敷を襲った。豪雨は壁代わりの布を吹き飛ばし、部屋の中の家具をなぎ倒す。床はずぶ濡れ。浸水しそうなほどだ。
天気はすべて獏が管理している。
よって、雨への備えなどしていない。
娘は奇声をあげ、目を剥いた。
「ああーっっ!! 私せっかく掃除したのにぃっ!?」
「ばかやろー、虚しい努力続けて、あいつが気づくような男に見えるか?」
仙人はにやりと笑った。うっと言葉に詰まる。
「・・・いやいや。でもですね」
娘は眉を寄せる。そうこうしているうちに、獏が部屋から飛び出してきた。
「火喰(ひぐい)―!! 殺してやるから出てこい!!」
〈火喰〉は、仙人の名前である。
「やっべ、バレた! 逃げるぞ!」
仙人はまるで子供、いや子供なのだが、そのまま娘の手を引いて走り出した。
下手人を見つけた獏は追ってきた。
そうとう怒っているらしい。彼は幻獣の姿に変身すると、空をかっ飛ぶ。
(あれが、獏さまの本来のお姿?)
娘は目を丸くする。
鼻は信じられないくらい長い。口の端から長い牙が生え、白々とした巨体は牛のようでもあり、虎のようでもある。
これが幻獣なのか。想像していたより、はるかに雄々しく、猛々しい。
同時に、乳白色の肌はとても優美だ。
いっぽう、火喰仙人も負けていない。
杖を一振りすると、真っ暗な空間が地面に、水たまりのように浮き出た。まるで宇宙だ。
仙人はひょいとその中へ入ってしまう。
「ええ? 待って!」
得体の知れない世界に連れて行かれるような恐怖心と好奇心に胸をくすぐられる。
どっちについていこう?
獏を取るか仙人を取るかで悩んだが、水たまりの空間から仙人の剛腕が伸びてきてひょいと引っ張られる。悲鳴を上げるひまもない。問答無用。娘は水たまりに引きずり込まれた。
娘の足が吸い込まれ、見えなくなると、黒い水たまりはフッと消えてしまった。
「火喰・・・。なにを考えている?」
獏はしゅる・・・と、もとの姿に戻る。
雨に打たれながら、しばし連れ去られた娘をどうしようかと思案した。