・・・だから、この祖母へのちょっとの苛立ちも、蓋をする。
(わたしは、おばあさまとは違う。死んだあとまで、獏さまを束縛したりしない)
獏に幸せにしてもらうだけではない。
もっともっと、彼自身に幸せをあたえたい。
笑った顔が見たいのだ。
饅頭を食べながら帰った、あの日の夜のように。軽口をたたきあいながら。
だから今日も、彼の部屋を掃除する。
決して悟られないように。
愛情を押し売りしたくないから。
傷心した彼に、これ以上自分のことで、気を使ってほしくないから。
それが自分の〈誇り〉だ。
祖母と違うところだ。
・・・・・・・・・そう信じている。
日中掃除を終え、夜更けに彼が部屋に入っていく。自分が用意した燭に火を灯すのを、離れた夜の庭からながめるのだ。
壁の代わりにかけられた布にうつるその影を、娘は草むらからうっとりとながめるのが好きだ。いつの間にか、習慣化している。
あさましい、と思う。人さまが落ち込んでいるのに、今の環境を楽しんでいるなんて。
でもやめられない。
獏には悪いが、この上なく、幸せだから。
「獏さまは、いつ気づくかな・・・?」
ごろりと草むらに横になり、星空へ手を伸ばす。
落ち込んだりしない。楽しいことは、いくらでもある。
夢幻の夜空は、地上より遥かに面白い。
つねに星は生き物のように動く。流れ星など数え切れない。
きっと、祈りがいくつあってもたりない。
娘は思う。
こんなに星が綺麗なのは、わたしの心に明かりが灯っているからだと。
わたしにいつか気づいてくれるかな、などと思いつつ、いつもの癖で、また野宿してしまった。
「おーい、野生児。起きろ」
目を開けると、お子様の顔面が間近に迫っていた。仙人だ。
娘は「きゃああっ!?」と盛大に悲鳴を上げる。口づけされるかと思うくらい、間近だった!娘のうぶな反応に満足すると、仙人はのんびり隣に腰を下ろした。
「こんなところで寝てちゃぁだめだろ。またお局様にどやされんぞ」
お局様、とは侍女頭の狐牡丹のことだ。
娘は苦笑した。
「優しい方ですから、折檻はされません。仙人様はなぜここへ?」
「おまえとおんなじ目的さ。・・・こっから、あいつの部屋が見えるんだろ?」
そういって、仙人は草むらに寝転がると、うつ伏せで標的の部屋を覗き見た。
いつの間にか、獏は帰宅していたようだ。
「き、気づいていたんですか!」
(わたしは、おばあさまとは違う。死んだあとまで、獏さまを束縛したりしない)
獏に幸せにしてもらうだけではない。
もっともっと、彼自身に幸せをあたえたい。
笑った顔が見たいのだ。
饅頭を食べながら帰った、あの日の夜のように。軽口をたたきあいながら。
だから今日も、彼の部屋を掃除する。
決して悟られないように。
愛情を押し売りしたくないから。
傷心した彼に、これ以上自分のことで、気を使ってほしくないから。
それが自分の〈誇り〉だ。
祖母と違うところだ。
・・・・・・・・・そう信じている。
日中掃除を終え、夜更けに彼が部屋に入っていく。自分が用意した燭に火を灯すのを、離れた夜の庭からながめるのだ。
壁の代わりにかけられた布にうつるその影を、娘は草むらからうっとりとながめるのが好きだ。いつの間にか、習慣化している。
あさましい、と思う。人さまが落ち込んでいるのに、今の環境を楽しんでいるなんて。
でもやめられない。
獏には悪いが、この上なく、幸せだから。
「獏さまは、いつ気づくかな・・・?」
ごろりと草むらに横になり、星空へ手を伸ばす。
落ち込んだりしない。楽しいことは、いくらでもある。
夢幻の夜空は、地上より遥かに面白い。
つねに星は生き物のように動く。流れ星など数え切れない。
きっと、祈りがいくつあってもたりない。
娘は思う。
こんなに星が綺麗なのは、わたしの心に明かりが灯っているからだと。
わたしにいつか気づいてくれるかな、などと思いつつ、いつもの癖で、また野宿してしまった。
「おーい、野生児。起きろ」
目を開けると、お子様の顔面が間近に迫っていた。仙人だ。
娘は「きゃああっ!?」と盛大に悲鳴を上げる。口づけされるかと思うくらい、間近だった!娘のうぶな反応に満足すると、仙人はのんびり隣に腰を下ろした。
「こんなところで寝てちゃぁだめだろ。またお局様にどやされんぞ」
お局様、とは侍女頭の狐牡丹のことだ。
娘は苦笑した。
「優しい方ですから、折檻はされません。仙人様はなぜここへ?」
「おまえとおんなじ目的さ。・・・こっから、あいつの部屋が見えるんだろ?」
そういって、仙人は草むらに寝転がると、うつ伏せで標的の部屋を覗き見た。
いつの間にか、獏は帰宅していたようだ。
「き、気づいていたんですか!」

