お嫁にもらってくれませんか?

そう言おうとした唇を、獏は自分のそれでふさいだ。
「・・・それから先は、私が言うべきだろう? だが、明日まで待っていてくれ。――正式に、君を娶らせてほしいんだ」
譲葉は目を見開く。それから、涙がほろりとこぼれた。
「ええ。・・・待っているわ」

――明日。きっと君に愛しているとつたえるから。

獏は誓う。
二人は、こつんと額を突き合わせ、ほほえんだ。


その晩。
獏は自らの糸と譲葉の夢の糸を結びつけた。
かたく。かたく。
けっしてほどけないように。
彼女と結ばれると信じたかった。
縁がないひとなんて、信じたくなかった。
自分は縁を司る幻獣。

――彼女との幸せを願うことに、どんな罪がある?

獏は結んだ糸を満足そうに、ほほえんで見上げた。

夏の満天の星空は美しかった。
夜の清涼な風が、糸をゆらした。


――譲葉が倒れたと知らせが入ったのは、翌日のことだった。