夢結びは、縁結びに等しい。

夢に想い人が出てくれば、それは相思相愛の印だという。夢は赤い糸のような形をつくると、糸玉のように相手の首や体に絡む。

獏は夢を司る幻獣。故に、夢の赤い糸はくっきりはっきり見ることができた。人々の営みの中、糸は一人の人間から不特定多数に絡みついている。まるで蜘蛛の糸だ。
実れば糸は寄り合い、一本の太い糸となるが、縁が切れると途中でちぎれる。
そんなすれ違う人々の人生を山ほど見てきた獏にも、無数の糸が絡みついていた。
獏に思いを寄せる女性は多い。
容姿端麗で人を寄せ付けない冷たい美貌だが、中身はとても穏やか、物腰も優しい。誤解を生みやすい表情のせいで冷たい人だと思われがちだが、その実、とても優しい男なのだ。
だが、獏に絡みつく糸はどれも一時的なものばかりだった。
容姿に惹かれただけ。彼自身と深く交わろうとする糸はなく、出逢って数日後には自然とほつれ、ちぎれてゆく。なんとももろい恋慕だ。
獏は絡んではちぎれてゆく糸をわずらわしく思うときもあった。

――あの女人に逢うまでは。

獏は夢の庭へ繰り出した。
・・・ふと、永久的に植え付けたユズリハの樹が目に止まり、獏はその場にたたずんだ。

ユズリハの樹は獏にとって、ただの観賞用の庭木ではない。