和葉はおずおずと顔色をうかがう。こちらの言葉に嘘がないか、疑心暗鬼なのだろう。奴婢に身分を落とされるまで、数々の裏切りにあってきたであろうことは察せられた。
獏は静かに言う。
「案ずるな。私は人間とは違う。一度した約束は、違えはしない」
幻獣は、天帝につかえるもの。嘘をつけば、罰があたえられる。
それを伝えると、ようやく和葉はほっとした表情になった。ふらりと体がゆらぎ、崩れ落ちるように気を失う。
「おかあさんっ」
娘は寝台から起き上がった。まだ体中あちこち痛いが、それどころではない。
仙人は脈をとる。
「気を張っていたのが安心しただけだ。数日眠れば元気になるだろうよ」
そう言うと、仙人は子供の体とは思えぬ剛腕で、和葉を横抱きにした。そのまま、隣の部屋へ連れてゆく。
あっけにとられながら、それを見送った娘は、ふと、獏の表情が気になった。
(なんだか、いまにも、枯れてしまう花のようなお顔だわ)
彼はふらふらと、外へ出ていってしまう。
娘はまぶたを伏せ、静かにそれを見送った。