低い声は氷のようにひややかだが、体に回された手はあたたかい。
「ど、どうしてここへ・・・?」
ほうけた声が出た。
男はしばし娘をにらみつける。ついで背後の獣たちをするどい視線で射ぬいた。
「疾(と)く去れ!!」
すさまじい殺気。たった一言だけで、獣は敗北を悟る。
狼は尻尾を巻いて娘から離れると、我先にと草むらへ飛び込んだ。がさりと音を立て、静寂がおとずれる。
娘はぼうぜんと一部始終を見ていた。
やがて、男をしみじみと見上げる。
「かみさまは、お強いのですねぇ・・・」
「私は神ではない。そのような呼び方をするな」
男は娘を支えるのをやめた。
「ちょっ!?」
娘はその場に投げ捨てられた。彼はさっさと水の入った壺だけを持って行ってしまう。
「ま、待って!」
娘はあわてて、その後を追った。
「あの、狼を追い払ってくださったのはありがたいのですが。つ、壺をかえしてください!」
「死にたいなら返してやる。お前のその足取りでは、麓(ふもと)の村につく前に噛み殺されるぞ」
「え・・・」
娘は瞬(またた)いた。
(それって、村まで送ってくれるってこと・・・?)
なんだかわからないが、娘は胸に明かりが灯ったような心地がした。彼の気まぐれだろうが、初対面の人にここまで親切にされたことはない。
「おい。・・・すこし離れろ」
不機嫌そうに言われ、娘は「あっ。すいませんっ」と叫んで離れた。いつの間にか、彼の袖をにぎりしめていたらしい。
(さ、さっき死ぬところだったから)
いいわけじみた事実を言おうとしたが、やめた。かえって気まずくなるだけだ。
それより、まだ礼を言っていない。
「あのっ。助けていただきありがとうご」
ざいます、と続けるはずだった。
しかし、度を越した空腹は時と場所を選ばない。のんきな大音量は、語尾をかき消してしまう。
(はずかしい・・・! バカッ、わたしのバカッ! みっともない!)
娘は腹をおさえ、赤面しうつむいた。
頭から湯気が噴き出すようだ。礼さえまともに言えない。まるで子供ではないか。
「・・・腹が減っているのか」
幸いなことに、男は笑わないでくれた。
懐から、笹の葉の包み紙を取り出し、ひょいと娘へ放る。
「な、なんですか? これは」
「饅頭(まんとう)だ。そのざまでは近いうちに倒れるぞ」
彼の言うことはまとを得ていた。
娘の体はあまりにも痩せすぎている。
「ど、どうしてここへ・・・?」
ほうけた声が出た。
男はしばし娘をにらみつける。ついで背後の獣たちをするどい視線で射ぬいた。
「疾(と)く去れ!!」
すさまじい殺気。たった一言だけで、獣は敗北を悟る。
狼は尻尾を巻いて娘から離れると、我先にと草むらへ飛び込んだ。がさりと音を立て、静寂がおとずれる。
娘はぼうぜんと一部始終を見ていた。
やがて、男をしみじみと見上げる。
「かみさまは、お強いのですねぇ・・・」
「私は神ではない。そのような呼び方をするな」
男は娘を支えるのをやめた。
「ちょっ!?」
娘はその場に投げ捨てられた。彼はさっさと水の入った壺だけを持って行ってしまう。
「ま、待って!」
娘はあわてて、その後を追った。
「あの、狼を追い払ってくださったのはありがたいのですが。つ、壺をかえしてください!」
「死にたいなら返してやる。お前のその足取りでは、麓(ふもと)の村につく前に噛み殺されるぞ」
「え・・・」
娘は瞬(またた)いた。
(それって、村まで送ってくれるってこと・・・?)
なんだかわからないが、娘は胸に明かりが灯ったような心地がした。彼の気まぐれだろうが、初対面の人にここまで親切にされたことはない。
「おい。・・・すこし離れろ」
不機嫌そうに言われ、娘は「あっ。すいませんっ」と叫んで離れた。いつの間にか、彼の袖をにぎりしめていたらしい。
(さ、さっき死ぬところだったから)
いいわけじみた事実を言おうとしたが、やめた。かえって気まずくなるだけだ。
それより、まだ礼を言っていない。
「あのっ。助けていただきありがとうご」
ざいます、と続けるはずだった。
しかし、度を越した空腹は時と場所を選ばない。のんきな大音量は、語尾をかき消してしまう。
(はずかしい・・・! バカッ、わたしのバカッ! みっともない!)
娘は腹をおさえ、赤面しうつむいた。
頭から湯気が噴き出すようだ。礼さえまともに言えない。まるで子供ではないか。
「・・・腹が減っているのか」
幸いなことに、男は笑わないでくれた。
懐から、笹の葉の包み紙を取り出し、ひょいと娘へ放る。
「な、なんですか? これは」
「饅頭(まんとう)だ。そのざまでは近いうちに倒れるぞ」
彼の言うことはまとを得ていた。
娘の体はあまりにも痩せすぎている。

