うすうす悟っていた。村へ降り、和葉を救出したとき。どこにも譲葉はいなかったのだ。意識が混濁し始めていた和葉にも尋ねた。「家族はお前一人か」と。
和葉は、再度たずねた。
「あなた様は、何者なのですか?」
獏はぎゅっと拳を握りしめ、震える唇を叱咤(しった)しながら、冷静を装った。
「申し遅れた。――私は神でも、人間でもない。天帝につかえる幻獣、獏だ」
母子は息を呑む。

これから、長い夜が始まる。獏はそんな予感がしていた。