「ずっと、いてくださったんですか?」
「・・・・・・・たまたま、居合わせただけだ」
嘘だ。本当は片時も離れずにそばにいた。
だがそれでも満足げな笑みを浮かべる娘に、きしりと胸がうずく。
(・・・そういえば、私にもこんな頃があった。目が合うだけでも嬉しくて。もう一度こちらを見ないかと待っていた時期が)
彼女と触れていると、懐かしいことばかり思い出す。
天と地ほども年の離れた人間の娘に、こんな感情を抱くなど、どうかしている。
「ひとつ、確かめたいことがある。いいか?」
獏は慎重に尋ねた。
事情を聞きたかった。引き伸ばすより、今ここではっきりさせておいたほうがいいだろう。
「そなたは、なぜ奴婢などに? 奴婢になるのは、罪人かその子供だと聞いた。無礼を承知でたずねたい。おまえの両親は、罪を犯したのか?」
「罪など、おかしてはおりません」
大人の女の声がした。
振り向くと、仙人に支えられ、ふらつきながら歳のいった女が立っていた。
「申し遅れました。わたくしは、この子の母親です。・・・かつて取り上げられる前の名を、和葉(かずは)と申します」
彼女はそのまま、その場に膝をつくと、深々と礼をした。
「このたびは、娘ともどもお救いくださり、ありがとうございました。大蛇様に嫁に出されたと聞き、私も情けない話ですが病が悪化し・・・。獏様に救っていただかねば、今ごろ」
母――和葉は、顔をあげると、寝台に横たわる娘へ視線を投げた。
「あとを追うと決めておりました。この胸に蓄積された恨みを焦(こ)がしながら・・・」
獏は歩み寄り、和葉を立たせる。和葉はもう一度深々と頭を下げると、今度は娘へ駆け寄り、ほろほろと涙を流した。
「よかった・・・っ。ほんとうに、生きていてよかった!」
ぎゅうと、娘を抱きしめる姿は、譲葉には似ていなかった。
母親の顔をしていた。
獏は意を決し、問う。
「譲葉は、そなたの母親であり、この娘の祖母か?」
和葉は息を呑んだ。――そして、深くうなずく。
「先程の問も含め、お答えいたします。譲葉は私の母です。しかし、亡くなったのは五十年も前のこと。なぜそれをご存知なので・・・?」

亡くなった。

その一言は、鈍器で頭を殴られたような衝撃をもたらした。
死んだ? 譲葉が?