「にしても、たった三回の出会いだけで、五十年も固く閉ざしていたお前の心の壁をぶち破るなんて、すげえ娘だな、あのコは」
獏ははにかみ、「お前は、いい友だよ」とその背をたたいた。
いてえよ、とお子様仙人は嫌がると、ぴょこんとくくった髪が動いた。
「で、どうするつもりだ、これから。譲(ゆずり)葉(は)の孫なんだろ。・・・お前が辛(つら)くないのか」
獏はしばし沈黙した。
「・・・あの娘の心身の傷がいえるまでは、そばにおく、つもりだ」
「確実に情が芽生(めば)えるぞ」
仙人は、はっきりといった。
「あの娘(こ)をもてあそぶのだけはやめろ。確実にそばに置くと決めるまで、手もつなぐな。今のあの娘にとって、ここ以上に安全な場所はない。・・・お前がいるのを除いてな」
女好きの仙人が、珍しく真面目な顔でいった。
「言ってくれるな」
獏はむすっとした。
「私はおまえと違って、たやすく女人に触れはしない。孫とわかった以上、懸想(けそう)などせん」
「ハッ、どうだか! スケベじゃない男なんてこの世にいるもんかよ! 認めろよこのムッツリめ!」
「それ以上言ってみろ。毛をむしってやる」
獏はむんずとよく動く触覚のようなものを鷲掴みにした。いだだだだ・・・!と仙人は悲鳴をあげる。
友人との雑談はつきず、月見(つきみ)台(だい)から響く楽しげな声は、夜にとけていった。
そのころ。
現世――清水村は、大雨が片時もやむことなく降り続いた。山はぬかるみ、土砂崩れは麓(ふもと)の村を直撃した。
人々は這々(ほうほう)の体(てい)で逃げ惑(まど)う。
「なんということだ・・・!」
村長は魂が抜けたように呆然(ぼうぜん)とし、咲紀は泥まみれになりながら雨に打たれている。
土砂から生き残った人々は、次々と襲い来る災の数々にぞっと泡肌がたち、災の現況である親子を静かな殺意を込めてにらみつけていた。
獏ははにかみ、「お前は、いい友だよ」とその背をたたいた。
いてえよ、とお子様仙人は嫌がると、ぴょこんとくくった髪が動いた。
「で、どうするつもりだ、これから。譲(ゆずり)葉(は)の孫なんだろ。・・・お前が辛(つら)くないのか」
獏はしばし沈黙した。
「・・・あの娘の心身の傷がいえるまでは、そばにおく、つもりだ」
「確実に情が芽生(めば)えるぞ」
仙人は、はっきりといった。
「あの娘(こ)をもてあそぶのだけはやめろ。確実にそばに置くと決めるまで、手もつなぐな。今のあの娘にとって、ここ以上に安全な場所はない。・・・お前がいるのを除いてな」
女好きの仙人が、珍しく真面目な顔でいった。
「言ってくれるな」
獏はむすっとした。
「私はおまえと違って、たやすく女人に触れはしない。孫とわかった以上、懸想(けそう)などせん」
「ハッ、どうだか! スケベじゃない男なんてこの世にいるもんかよ! 認めろよこのムッツリめ!」
「それ以上言ってみろ。毛をむしってやる」
獏はむんずとよく動く触覚のようなものを鷲掴みにした。いだだだだ・・・!と仙人は悲鳴をあげる。
友人との雑談はつきず、月見(つきみ)台(だい)から響く楽しげな声は、夜にとけていった。
そのころ。
現世――清水村は、大雨が片時もやむことなく降り続いた。山はぬかるみ、土砂崩れは麓(ふもと)の村を直撃した。
人々は這々(ほうほう)の体(てい)で逃げ惑(まど)う。
「なんということだ・・・!」
村長は魂が抜けたように呆然(ぼうぜん)とし、咲紀は泥まみれになりながら雨に打たれている。
土砂から生き残った人々は、次々と襲い来る災の数々にぞっと泡肌がたち、災の現況である親子を静かな殺意を込めてにらみつけていた。

