一方、仙人は母子の治療を終え、優雅に月をみながら酒を傾けていた。
母親の方も同じくむち打たれた後がおびただしかった。しかし、最近の傷はない。
おそらく、肺の病がひどく、動くことすらままならなかったからだろう。
(母娘ふたり、かばいあって生きてきたのかねぇ・・・)
なんと涙ぐましい。仙人はどこかほろりとするものを感じながら、しかし母子が救われたことへの祝福として、酒をあおる。
「終わったのか」
獏が、背後から話しかけてきた。
仙人はにひひ、と笑う。
「お前の愛(いと)しの娘(むすめ)っ子(こ)、痩せてる割に、いいおっぱいしてたぜ」
振り向き、仙人は目を丸くした。
「おいおい、さっき勇んで出ていったときの勢いはどうしたよ?」
「・・・」
獏は無言で、隣に腰掛けた。二階だてという豪華な月見(つきみ)台(だい)だ。庭に植えたヤマユリの香りがほのかに漂い、酒に甘美な彩りを添えてくれる。
「・・・私は、譲葉(ゆずりは)の孫を、拾ってきたのかもしれぬ」
「・・・・・・・・・はぁ?」
仙人は、今度こそ面食らった。
獏はぽつりぽつりと続ける。
「まだ、確信はない。孫の代だから人間の血のほうが濃いのだろう。あまり面影はなかったから、血縁者などと思っても見なかった」
「おいおいおいっ! どうするんだよ、そんな無責任なことして。また村に返すのか!?」
仙人は、先程の娘の傷を思い出した。獏に負けず、仙人ですら村人を殺してやりたいほど激怒している。
「確実に殺されるぞ! あの美人の母ちゃんもろともだ」
「返す気はない」
獏は静かに、言い聞かせるように言った。出会った初日の夜を思い出す。
「一度目は、万頭がうまいと笑っていた。二度目は――・・・」
心底嬉しそうに、ほほえんだ。
私のなにげない言葉で。
そういった獏の横顔は、痛みを堪えるような、でもそれを享受(きょうじゅ)しているような、複雑な顔をしていた。
「そして、三度目は・・・。雨降る岩場に、無惨にも打ち捨てられていた。もう思い出したくもない」
出会うたび、悲惨な目にあっている娘。庇護(ひご)欲(よく)をかきたてられる自分は、いったい何なのか。
「私は、どうしたらいいのかすら、わからぬまま、連れ帰ってきてしまった。だがその行動に、後悔はない」
「・・・俺もそうするだろうな」
ぽつりと、仙人は言う。
母親の方も同じくむち打たれた後がおびただしかった。しかし、最近の傷はない。
おそらく、肺の病がひどく、動くことすらままならなかったからだろう。
(母娘ふたり、かばいあって生きてきたのかねぇ・・・)
なんと涙ぐましい。仙人はどこかほろりとするものを感じながら、しかし母子が救われたことへの祝福として、酒をあおる。
「終わったのか」
獏が、背後から話しかけてきた。
仙人はにひひ、と笑う。
「お前の愛(いと)しの娘(むすめ)っ子(こ)、痩せてる割に、いいおっぱいしてたぜ」
振り向き、仙人は目を丸くした。
「おいおい、さっき勇んで出ていったときの勢いはどうしたよ?」
「・・・」
獏は無言で、隣に腰掛けた。二階だてという豪華な月見(つきみ)台(だい)だ。庭に植えたヤマユリの香りがほのかに漂い、酒に甘美な彩りを添えてくれる。
「・・・私は、譲葉(ゆずりは)の孫を、拾ってきたのかもしれぬ」
「・・・・・・・・・はぁ?」
仙人は、今度こそ面食らった。
獏はぽつりぽつりと続ける。
「まだ、確信はない。孫の代だから人間の血のほうが濃いのだろう。あまり面影はなかったから、血縁者などと思っても見なかった」
「おいおいおいっ! どうするんだよ、そんな無責任なことして。また村に返すのか!?」
仙人は、先程の娘の傷を思い出した。獏に負けず、仙人ですら村人を殺してやりたいほど激怒している。
「確実に殺されるぞ! あの美人の母ちゃんもろともだ」
「返す気はない」
獏は静かに、言い聞かせるように言った。出会った初日の夜を思い出す。
「一度目は、万頭がうまいと笑っていた。二度目は――・・・」
心底嬉しそうに、ほほえんだ。
私のなにげない言葉で。
そういった獏の横顔は、痛みを堪えるような、でもそれを享受(きょうじゅ)しているような、複雑な顔をしていた。
「そして、三度目は・・・。雨降る岩場に、無惨にも打ち捨てられていた。もう思い出したくもない」
出会うたび、悲惨な目にあっている娘。庇護(ひご)欲(よく)をかきたてられる自分は、いったい何なのか。
「私は、どうしたらいいのかすら、わからぬまま、連れ帰ってきてしまった。だがその行動に、後悔はない」
「・・・俺もそうするだろうな」
ぽつりと、仙人は言う。

