童のようにぴょこんと一(ひと)括(くく)りにした髪がはねる。感情に合わせてよく動く髪が妙に癇(かん)に障り、獏は鷲掴(わしづか)みにするとグリグリと右、左と振り回した。「あだだだだっ!?」と仙人は悲鳴をあげる。
「口の聞き方に気をつけろ。私がその気になれば、貴様など、この夢幻に出入り禁止にできるんだぞ」
「しるもんか。仙人なめんなよ幻獣!」
仙人。この子供は、齢(よわい)四千超えの仙人だった。彼はその中でも特殊な部類で、不死鳥のように誕生と死を繰り返す。
今はよみがえって間もないため、子供の姿だが、本来であれば大人の男だ。
女癖の悪さも獏はよく知っていた。子供の姿にかこつけて女湯に行っていることなどお見通しである。
だから本当は頼みたくない。しかし娘は具合が非情に悪い。母親もだ。あれから獏が持ちうる限りの薬を試したが効かない。
「わたしとて好き好んで貴様に頼むわけではない。それほど患者が重症なのだ」
「患者? なんだよノロマ、病人がいるならもっと早く言え!」
仙人はそう言うと、獏を押しのけ、ててて・・・と走り出した。
この男は医学にも精通している。彼ならば完璧に治せるはずだ。
獏は途中で道に迷ってきょろきょろする仙人に、そこを左だ、とあとを追いながら教えてやった。
「こりゃ、ひでぇ。かわいい額(ひたい)がぱっくり割れてやがる」
仙人は腕まくりすると、手を洗い、真面目な顔で患者と向かい合った。
「私の侍医に治療させたが」
「アホンダラ! そいつはヤブだ、今すぐ首にしろ」
仙人はあーあ、かわいそうにな、と傷口を覗(のぞ)き込む。
「長時間雨に打たれたせいで、きたねえ水が入り込んだんだろうな。傷口の縫い方も雑だし、これじゃ傷跡が残るぞ」
仙人はせっせと治療器具を並べながら言う。
「この子は心がまいってるせいで抵抗力もない。俺がこなけりゃ、死んでたな」
死。その言葉に、獏はひそかに悪寒が走った。
「なんとかできるか?」
「俺を誰だと思ってやがる。いいから、今から言うもんもってこい」
仙人はテキパキと侍女たちに指示を出すと、懐から革の布袋を取り出した。紐(ひも)をとくと、銀針がぞろりと並んでいた。
それを娘の白い肌にずぶりと指す。すると荒んでいた呼吸が、すとんと静かになった。
「麻酔の代わりだ」
「口の聞き方に気をつけろ。私がその気になれば、貴様など、この夢幻に出入り禁止にできるんだぞ」
「しるもんか。仙人なめんなよ幻獣!」
仙人。この子供は、齢(よわい)四千超えの仙人だった。彼はその中でも特殊な部類で、不死鳥のように誕生と死を繰り返す。
今はよみがえって間もないため、子供の姿だが、本来であれば大人の男だ。
女癖の悪さも獏はよく知っていた。子供の姿にかこつけて女湯に行っていることなどお見通しである。
だから本当は頼みたくない。しかし娘は具合が非情に悪い。母親もだ。あれから獏が持ちうる限りの薬を試したが効かない。
「わたしとて好き好んで貴様に頼むわけではない。それほど患者が重症なのだ」
「患者? なんだよノロマ、病人がいるならもっと早く言え!」
仙人はそう言うと、獏を押しのけ、ててて・・・と走り出した。
この男は医学にも精通している。彼ならば完璧に治せるはずだ。
獏は途中で道に迷ってきょろきょろする仙人に、そこを左だ、とあとを追いながら教えてやった。
「こりゃ、ひでぇ。かわいい額(ひたい)がぱっくり割れてやがる」
仙人は腕まくりすると、手を洗い、真面目な顔で患者と向かい合った。
「私の侍医に治療させたが」
「アホンダラ! そいつはヤブだ、今すぐ首にしろ」
仙人はあーあ、かわいそうにな、と傷口を覗(のぞ)き込む。
「長時間雨に打たれたせいで、きたねえ水が入り込んだんだろうな。傷口の縫い方も雑だし、これじゃ傷跡が残るぞ」
仙人はせっせと治療器具を並べながら言う。
「この子は心がまいってるせいで抵抗力もない。俺がこなけりゃ、死んでたな」
死。その言葉に、獏はひそかに悪寒が走った。
「なんとかできるか?」
「俺を誰だと思ってやがる。いいから、今から言うもんもってこい」
仙人はテキパキと侍女たちに指示を出すと、懐から革の布袋を取り出した。紐(ひも)をとくと、銀針がぞろりと並んでいた。
それを娘の白い肌にずぶりと指す。すると荒んでいた呼吸が、すとんと静かになった。
「麻酔の代わりだ」

